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【あの本を、もういちど。平田オリザさん】卒園式にもらった本が、作家人生の原点に。

折に触れて読み返したくなる本がある。たとえ読んだことすら忘れていても、再び手にした瞬間、記憶の扉が劇的に開かれ、鮮やかに感情が甦る本もある。今の自分をかたちづくるのは、人生経験とかつて読んだ無数の本だと言えないだろうか。新しい本を読むのも楽しいことだけれど、この夏は“再読”の喜びを味わってみたい。

撮影・岩本慶三 文・後藤真子

【あの本を、もういちど。平田オリザさん】卒園式にもらった本が、作家人生の原点に。

「その幼稚園は、今も、あの辺りにあるんですよ」
東京・駒場にある「こまばアゴラ劇場」の屋上で、劇作家の平田オリザさんは夕映えの街を指さした。

東京大学に程近い、駒場の商店街で、平田さんは生まれ育った。昔、通っていた幼稚園の園長先生が、卒園式の日にプレゼントしてくれた1冊の本を、平田さんはずっと大切に持っている。エーリヒ・ケストナーの『どうぶつ会議』だ。
ケストナーは、『飛ぶ教室』『ふたりのロッテ』など、優れた児童文学作品をいくつも残したドイツの作家。その多くの挿絵を担当したワルター・トリヤーが、本書でも、ユーモアあふれる絵で、さまざまな動物とケストナーの物語世界を描き出している。
「幼稚園にこの本があり、僕が好きで読んでいたので、卒園の時に買ってくれたのだと思います。園長先生のサイン入りでした」

物語は、いつまでも争いをやめない人間に業を煮やした動物たちが、世界中の動物を集めて会議を開き、《戦争や、貧困や、革命が、二どとおこらない》よう、国境をなくすことを要求するというもの。それも、《人間の子どもたちのため》に。
「中学生の時に読み返して、よくこんな難しいのを読んでいたな、と驚きました。絵本という印象だったのが、あれ? 絵本じゃないじゃん、と」

動物たちの要求を、人間はたびたび跳ね返す。ついに動物たちが最後の手段に踏み切ると、世界中の子どもが姿を消した——動物たちが人間の子を保護して隠したのだ。そして、ゾウのオスカーは演説する。《みなさんの政府が、けんかをしたり、戦争をしたり、わるだくみをしたり、よくばったりして、わたしたちが大すきな、みなさんの子どもたちの幸福をだいなしにしているのを、もう、じっとみているわけにはいかなくなったのです。》

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