くらし

寿司を塩とオイルで食べると、 味覚の世界が広がってくる。

日本人はもちろん、世界中の人が「食べておいしい」と感じる寿司を追究したら、この形になった。『アル・ケッチァーノ』奥田政行さんが提案する、グローバルな寿司の誕生だ。
  • 撮影・森山祐子 文・越川典子

どの国の人でもおいしく感じる味、 ジェノバでも大好評でした。

奥田政行さん 「アル・ケッチァーノ」オーナーシェフ

「魚でも野菜でも、素材がよければ、塩で食べるのが一番おいしい」

こう話す奥田政行さんが山形県鶴岡市にイタリア料理店『アル・ケッチァーノ』を出して18年になる。庄内の食材を愛し、その味を最大限に引き出すロジックを、「料理」という形で国内外に発信。奥田さんを天才料理人と呼ぶ人がいるが、その理由は「野菜の気持ちになって」土を味わい、「魚の声を聞くために」海水を舐めるといった、食材を育む自然と語り合う姿勢ゆえ。

そんな奥田さんが、昨年『イル・フリージオ』という魚バルを鶴岡駅前に出店。寿司を塩とオイルで味わい、ワインとのマリアージュも楽しめるという。

まずは、食べずに、寿司の味を想像してほしい、と奥田さん。

「オイルに酢飯の糖分。これは言わば生クリームに砂糖を入れているようなものなんだ。そこに塩、酢飯の酢を加える。これは、ヴィネグレットソースでしょ? まずいはずがない」

たしかに。ワインの酸味も加われば、

「なお、おいしい。地場のワインは、食事に合うようにワイナリーと一緒に造ってきた。庄内のどの魚とも合う。2020年オリンピックで、日本に大勢の外国人がやってくる。この食べ方を提案したくてね。試してみると、すごく面白いんだよ」

 昨年は、ジェノバでオイル寿司を披露して大好評。NYとミラノからもオファーがくるなど、鶴岡発の提案はグローバルな広がりを見せている。

「だって、醤油で食べたら、どの寿司も醤油の味に覆われて、その魚の個性や繊細な味が感じられないでしょう」

たとえば、ワラサ(若いブリ)。ワラサは、月の雫の塩と、シチリアのオリーブオイルで食べるのだが、

「庄内浜で獲れるワラサやブリは、ウリの香りがするんです。育った海の塩と青草の香りのオイルを使うことで、舌の温度で温まったオイルが香り、嚙んだワラサからも香りが現れてくる。口中で同化して消える味もあれば、相乗効果で強くなる味もあるんだよね」

庄内浜の天然の魚介をすべて塩とオイルで食べる。野菜のにぎりが、一連の流れの巧妙なアクセント。感動の味わい。

上の写真を見ながら想像してもらおう。

手前、菊花のにぎりから時計回りで、ワラサ大トロ。マグロのトマト漬け。ワラサ赤身。スズキ。〆サバ。ヒラメ。黒ソイ。マトウダイ。生タコ。パプリカ。後ろのオイルを刷毛や指でぬり、塩をのせて供される。

小ぶりの寿司をひとつ、口に放り込む。オイルがまったりと魚をくるみ、すっと鼻に抜ける香りが立つ。月山の麓で熟成した、きりっとした赤ワインを。複雑な口中調味でうっとりする。ここでは、1人30貫は食べるというのがわかる。今度はどんな組み合わせかと、限りなく試したくなる。

2017年、「オイル寿司」をひっさげて庄内米とともにイタリアの港町ジェノバへ。庄内で生まれた味は、海外でも大いに好評を博し、終演後スタンディングオベーションへ。
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