【庭を楽しむ 平井かずみさん】自然のままを受け入れる、庭も花生けも同じです。【前編】
撮影・徳永 彩
移ろいゆく表情も豊かなアジサイの、楚々とした佇まいに癒やされて。
実は、この家に引っ越してきた当初は、バラばかりが咲く庭にしようと思っていたそう。けれど、実際に庭作りを始めると、環境がバラの栽培には適していないことがわかった。
「今は隣に家が立っていますが、当時は雑木林に面していて風の抜けが悪く、湿気がこもりやすかったんです。しかも土を掘ってみると、すごく粘土質の土壌だとわかって。水はけの良い土を好むバラには不向きの土地でした」
一時は30品種ほどのバラを庭におろし、あれこれ試したが、思うようには根付かず、徐々に淘汰されていった。今では比較的丈夫な蔓バラなど、9品種だけがたくましく咲いている。
「バラが難しいなら、うちの庭には何が向いているんだろう? そう悩んでいたところ、うまく育ったのがアジサイでした。きっかけは、切り花でいただいたアジサイを試しに挿し木してみたこと。日本原産のアジサイは湿気にも強く、ここの環境にも合っていたようで、しっかり根付いたんです」
アジサイは、丈夫で手入れがいらず、長い期間楽しめるのが魅力。
「ぷっくりとした緑の蕾から、花(正確にはガク)が白や青、紫に色づき始め、そのまま切らずにおけば褐色や緑のアンティークカラーに変化して、いわゆる秋色アジサイに。6月から10月頃までたっぷり愛でた後は、ドライにして。こんな表情の移ろいを感じられるのも、庭を持つ喜びだと思います」
美しい色を長く保つには、適度に日陰になる場所で育てるといい。
「日を浴び過ぎると、秋色アジサイになる手前、夏くらいに茶色っぽくなってきてしまいます。南向きや西日の強い所は避け、大きな木の下や東向きの庭に植えるのがおすすめです」
水に浮かべたアジサイが、梅雨時の室内に涼を運んでくれる。
今回、メインのしつらいに使ったアジサイは、平井さんの好きなヤマアジサイ。本州に自生する種類だ。
「株が小ぶりで茎も華奢なのが特徴。コンパクトなうちの庭にもちょうどよく、暮らしの中に取り入れても主張し過ぎず、さりげなく馴染みます」
淡いピンクのアジサイを、水を張った平皿にひと房。他の草花と合わせた青いアジサイは食卓に。どこか奥ゆかしく、しっとり涼やかな印象だ。
「水の存在を感じられるガラスの器は、雨に映えるアジサイと相性が良いので、よく使います。家の中に水辺の景色を作り出すように生ければ、梅雨の蒸し蒸しとした空気も吹き飛びます」
何房かのアジサイを一緒に生けるときのポイントは、やはり自然に倣うこと。
「まだ蕾のもの、花が開いているもの、開きかけのものと、咲き具合の違う房を合わせます。庭に咲くアジサイも一度にみんな開くわけじゃないから、その景色をそのまま写し取るように」
庭でアジサイを育ててみて、気づいたことがある。
「自分が何を植えたいかよりも、この庭や土地には、何が似合うんだろうと考えることが大切だと思いました。大好きなバラが根付かなかったように、うまくいかないこともたくさんあって、今でも毎日が実験のよう。でもそれが、自然と寄り添うってことじゃないでしょうか。花生けも同じで、自分の思いどおりにしようとあれこれ手を加えずに、ありのままを生かすほうがいい。庭から、いろんなことを教わっています」
平井かずみ(ひらい・かずみ)●フラワースタイリスト。ikanika主宰。東京・自由が丘の『caféイカニカ』を拠点に、全国でワークショップを開催。著書に『あなたの暮らしに似合う花』など。
『クロワッサン』974号より
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