定席を観る際の “いろは”をお教えします。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
前回ご紹介した定席(じょうせき)の入り口“テケツ”と呼ばれる切符売り場――チケットがなまってテケツなのだとか――で切符を買ったら木戸口から場内へ。開演前に売店でお弁当とお茶を買うもよし、ビールにおつまみも結構、慣れたかたはお気に入りの召し上がりものを持ち込みというのもまた楽しみだそうです。
ただし匂いの強いものは避けたほうがいいですね。昔、池袋演芸場で「ビールに餃子で楽しもう」と焼きたての餃子を持ち込んだお客さまがありました。定員百人の小さな客席にニンニクの匂いが充満し、たまたま居合わせた名人・古今亭志ん朝師匠(2001年没)が「お客さま、餃子だけはご勘弁を」とお願いしてロビーで食べていただいたことがありました。
「どこに座ったらいいかしら?」というご質問もありますが、それぞれお好みですからねぇ……。がっつり落語に聴き入りたいかたはなるべく前方、お弁当やお酒とともにのんびり楽しみたいかたは真ん中から後方あたりなんかいいんじゃないでしょうか。さあまだ開演まで15分くらいはあるな……なんて思っていると何やら太鼓が鳴り出して、おやおや? 三味線が鳴って幕が開き、若い落語家らしき者が出てきてしゃべり始めましたよ。
実はこれ“前座”と呼ばれる落語家修行中の若者。れっきとしたプロなんですが、彼ら前座の本業は楽屋で先輩師匠がたのお手伝いをすること。落語はまだ商品になる前、つまり“料金のほか”なので開演時間前に高座に上がり、開演時間に高座を下りるのです。でもこの中に将来の名人が!? さあ「落語日和」の始まりです。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』976号より
広告