口あたり優しく手になじむ。漆の器の使い方をスタイリスト・高橋みどりさんに聞く。【後編】
撮影・合田昌弘 スタイリング・高橋みどり
たとえば黒漆の酒器に染付の猪口。 自分なりの美しさを発見したい。
食べ物がなによりおいしく見えるよう器を揃え、食卓を整える。数々の料理本を手がけ、漆の本も上梓している高橋みどりさんに、漆の器と楽しくつきあうための設えを教わった。
まずは、ほろ酔いセット。少し大きめのお盆は、運ぶための道具としてだけでなく、ひとり膳としても使える。
「挽き目がうっすら見えるお盆に、薄手の漆の片口、江戸期、染付の酢猪口を合わせます。黒い漆と染付の青の組み合わせが好き。美しいですよね。ふだん、純米酒を好んで飲みますが、使うのはざらっとした土ものの片口。この緊張感ある薄手の片口だったら、品のいい吟醸酒を合わせます」
栓横卓上挽き目盆・佐竹康宏 作
ロクロ挽きの名手として知られる佐竹さんのお盆。山中塗で挽き目が美しい。佐竹さんは残念ながら、昨年急逝。工房は息子の泰誌さんにより引き継がれた。直径34cm 問い合わせ:工房千樹 TEL 0761・78・0908
片口・赤木明登 作
紙でできているかのように薄く軽い黒漆の片口。口径(注ぎ口含む)8cm、高さ9cm 8万円 問い合わせ:赤木明登うるし工房
つや消し気味のモダンな黒漆盆には、俵形に握った塩むすび、きゅうり、小鉢にもろみ味噌。
「スタイリッシュなお盆で、盛り皿としても使い勝手がいい。サンドイッチや洋菓子を盛ってもおもしろい」
紙トレイ黒・杉田明彦 作
生地に紙を使用し、黒漆で仕上げた独特のテクスチャーのお盆。モダンなものづくりが器好きの注目を集めている。直径30.1cm、高さ1.3cm 2万円 問い合わせ:宙(sora) TEL:03・3791・4334
パンの取り皿として紹介するのは、黒漆地に朱漆で木芙蓉を描いたアンティークの吉野塗。もともと吉野塗が好きで、骨董市などで探していたが、立ち寄った店で状態のいいものを見つけて購入した。ふだん、高橋さんの食卓には、あまり柄ものが登場しないのだが、
「取り皿として気軽に使います。ぱっと華やかな気分になるのもうれしい」
取り皿・吉野塗
漆塗り発祥の地とされる奈良は吉野地方に伝わる吉野塗。木芙蓉の文様を朱漆で描き出した意匠は千利休も好んだといわれる。
高橋さんのように自在に漆の器を使いこなすためのコツをたずねると、「まずは使ってみてください」と一言。
「漆は盆暮れだけに使うものと大切にとっておくのではなく、毎日の食卓で。“秋には漆の飯椀で新米を”とか“晩酌を漆盆で”とかでいい。漆の器は食卓を楽しく、豊かにしてくれる。使ってみてこそ、それがわかると思います」
広告