【器好きのいつもの食卓】こつこつ集めた作家ものの器に刻まれる家族の歴史。
撮影・徳永 彩 文・嶌 陽子
山﨑瑞弥さん、山﨑 宏さんのいつもの食卓。
台所から漂う、炒めもののいい匂いに誘われて、遊んでいた山﨑家の長男、10歳の櫂くんと5歳の長女、千穂ちゃんがダイニングスペースにやってきた。
「お箸と箸置きを並べてくださあい」
母親の瑞弥さんの声がけで、2人で協力して食卓の準備をする。やがて、彩り豊かな料理が盛られた器の数々、そして炊きたてのごはんが入ったおひつなどが次々とテーブルに並んだ。料理はいつも、瑞弥さんと夫の宏さん、2人で作っている。家族4人が揃ったところで、いただきますと声を合わせ、にぎやかな夕食が始まった。
「僕、ごはんのおかわりが欲しい!」
「ちーちゃん、これも食べなさい」
その日の出来事などを話しながら、毎日1〜2時間かけてわいわい食べる。山﨑家の、いつもの食卓風景だ。
茨城・筑波山の麓で、農薬や化学肥料を使わないお米作りに取り組んでいる山﨑さん一家。忙しい毎日の中、生活のリズムを整える大切な時間が、家族全員でとる食事であり、それを支えるのが、十数年前から集めてきた、国内の作家ものや、骨董の器の数々だ。
ごはんに合うメインのおかずを大皿にどんと盛り、野菜をふんだんに使った作り置きの副菜を数品添えて、家族で取り分けて食べる。これが、山﨑家の夕食の基本形だ。この日の主役、“酢鶏”が盛られたのは、ずっと惚れ込んでいる茨城・笠間の陶芸家、額賀章夫さんの大皿。古代の土器を思わせるような独特の素朴な風合いが、にんじんやパプリカなどのカラフルな野菜がたっぷり入った料理とよく合う。
副菜が盛られた器や、さまざまな小皿の競演も楽しい。たとえば大根とにんじんのなますの紅白が際立つ優しい白の中鉢。こんがりと焼かれた野菜が映える深い飴釉の平皿。自家製の梅干しやぬか漬けがちょこんとのった豆皿。ほっとするような普段のおかずが、それぞれに表情豊かな器の中で精彩を放つ。
「“今日のおかずは、この器に合うかな”とか、“この器を使いたいから、今日はこのおかずにしよう”とか、毎日考えるのが楽しいですね。お茶碗も、“これは誰々のもの”と決めず、その日の気分によって変えてるんです。小皿も好きなので、ついいろいろ並べちゃって。夫には、洗いものが大変だよって言われるんですけど」
そう笑う瑞弥さん。日々の食卓で使ってこそ、器は家族の手の中で育ち、より輝きを増していく。そのことを、山﨑家の食卓は雄弁に物語っている。
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