古民家で保存食を手作りし、家族で台所に立つ暮らし。
撮影・三東サイ 文・後藤真子
自然の恵みで身体を整える
四季の食材と手作りの発酵食品によって食を整えるばかりでなく、自然の恵みは奈美さんの暮らしの隅々にまで行き渡っている。たとえば、漢方茶や常備薬。
「私は毎朝、紅花のお茶を飲んでいます。中国医学では瘀血を取ると言って、紅花には血行促進の効能があります。少量でも薬効が高いので、2年くらい続けています」と、奈美さん。
乾燥した紅花ひとつまみを茶碗に入れ、鉄瓶で沸かした白湯を注ぐ。「サフランみたいにきれいな色が出るんですよ」という言葉どおり、さっと湯が金色に染まり、赤い花弁の浮かんださまは美しい。花弁ごと飲めると聞き、口に含むと、くせのない味の液体がほのかな香りとともにのどを通り、心身が優しく温められる感じがする。
「地方に出かけると、道の駅などでいろいろなお茶が売られているでしょう。それを買うのが楽しみなんです」
常備薬は、うがい薬として、庭のビワの葉を摘んで作るビワの葉エキス、虫よけや虫刺され用には、ドクダミを焼酎に漬けたエキス、ひば油を水で薄めたスプレーなど。傷薬としては、キハダの粉末をシアバターに混ぜた塗り薬を携帯する。
「青梅をすりおろして絞った汁を、どろりと黒くなるまで煮詰めた梅肉エキスは、腹痛や下痢、二日酔いのときなどに、少しなめるといいんですよ」
スプーンで少量を味見させてもらうと、濃い甘酸っぱさにきゅっと口がすぼみつつ、梅らしい爽快感のある後味が好ましかった。
入浴剤にも自然の恵みを活用
入浴剤にも、自然の恵みを活用している。生姜を薄切りにしてひと晩干したものは、身体が冷えるときに。ビワの葉を乾燥させ、刻んで3〜4時間干したものは、疲労回復に。松の葉や、陳皮と呼ばれる柑橘の皮、あるいはみかんの皮を干したものは、ストレスがたまってイライラするときに。
「それらをさらしの袋に入れて、湯船に浮かべて入浴します。1種類でもいいし、ブレンドするときもあります」
今夜は何の湯にしようかと、考えて準備するひとときも、面倒がらず楽しめば、かけがえのない時間になる。
「ねえ、大ちゃん、お庭から松の葉をちょっと取ってきて」
奈美さんが頼むと、「ひとつ? ふたつ?」と聞きながら、もう駆け出している大地くん。あっという間に松の葉をひと房、取ってきてくれた。なんでもない日常のひとコマが、なんと微笑ましいことだろう。
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