『猫は、うれしかったことしか覚えていない』石黒由紀子|本を読んで、会いたくなって。
猫好きはどの猫も可愛いと思っていますね。
撮影・千田彩子
「まだ猫歴6年の新参者なのに、猫についていろいろ書いていいのかしらと思っているんですけど」
石黒由紀子さんの新刊は、愛猫・コウハイとの暮らしから見えてきた猫の不思議な魅力についてのエッセイだ。
そもそものきっかけはコウハイが梅干しの種を誤って飲み込んでしまい、取り除くために訪れた動物病院で獣医から聞いたひと言。
「猫は、入院や手術の苦しい記憶はそのうち忘れてしまうけれど、梅干しの種を転がして遊んで楽しかったことは記憶に残るんですよって。猫とはそういう生き物、と獣医さんに言われて、なんてポジティブだろうと思いました」
じつは石黒さんは、コウハイと出合うまで猫には怖いイメージしかなく、苦手だった。
「コウハイは私にとって初めての猫です。当時5歳だった豆柴が、ぼーっと暮らしていたので、何か刺激を与えたいなと。じゃあ猫はどうかしらと思ったんです」
保護猫の活動をしている友人の勧めで引き取った子猫は、石黒家の中をひととおり見回ったあと、まっすぐ「センパイ」豆柴のところに行って背中によじ登り寝た。
「猫って自分がこうしたいって思ったら、やってしまうんですね。2匹はすぐ仲良しになりましたが、コウハイはセンパイを立てています。最近、センパイが寝坊するようになってきたのですが、コウハイはさりげなくつついたり、近くにドスンと飛び降りたりしてセンパイを起こし、センパイが起きたら、そのあとからついてゴハンの場所に来るんです。そして “起こしたのはボクだよ” なんて主張しない。人間にほめられたいという欲求がないのでしょう」
コウハイと暮らすことで「猫の世界が一気に広がった」石黒さん。猫は、人を元気づける、猫は淡々と過ごす、猫は命いっぱいに生きている……とエッセイは続く。
エッセイの合間には友人知人から聞き集めた猫と人との出合いと別れがしんみりと語られている。いま、猫と暮らしている人は、もっと猫との時間を大切にしたくなるし、失った人は猫との思い出を抱きしめたくなるはずだ。
「タイトルを見ただけで『泣きそうになりました』といろんな人から言われます。それだけみんな猫に謝りたいことがあるのかな」
くしゃみをすると必ず「にゃっ」と小さく鳴いて答えるコウハイ。石黒さんにはそれが「God bless you(お大事に)」と聞こえるそうだ。
幻冬舎 1,300円
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