疲れが抜けない原因は、間違った生活習慣のせい!?
撮影・小出和弘 文・寺田和代
Q.寝室の遮光をしっかりして、眠りに集中しやすい環境に整えています。(41歳・ライター)
A.プラス面とマイナス面があります。寝る前や寝ている間はできるだけ刺激が少ないほうが望ましいので、光はシャットアウトし、さらに音や温度もある程度コントロールされた環境のほうがいいでしょう。問題は朝の光が入らないこと。朝日の刺激は閉じた瞼をつうじて自然な目覚めを促してくれますが、遮光カーテンは完全に光を遮ってしまうためそれができません。体内時計を正しくセットすることもできません。手だてとしては、朝、目覚ましなどで目が覚めたらすぐにパッとカーテンを開けて光を浴びること。なかなか起きられない人は、床に就く直前に寝室のカーテンを開けて寝るのもひとつの方法だと思います。
Q.早寝早起きのリズムを作りたいと思い、夜9時には就寝。でも眠りが浅くて夜中に目が覚めて、朝つらいことも。無理して早寝しないほうがいい?(47歳・会社員)
A.これは、リズムを作る起点が早寝→早起きなのが失敗の原因。早起き→早寝にしてみましょう。あまり知られていないことですが、体内時計のサイクルに従って私たちの体では自然と体温調節がされています。いちばん高い時間帯は平均的には夜7〜8時で、寝る少し前です。その時間帯がいちばん眠りにくく、たとえ寝付いたとしても体温が高いので深く眠れず、すぐに目が覚めてしまう。おまけに少し眠ったことで体内砂時計もある程度満たされるため、夜中に目が覚めるとさらに眠れなくなる。手だてとしては1週間から10日程度かけて起きる時間を早めにし、朝の光を浴びるタイミングを前にずらして体内時計全体を少しずつ前倒しさせること。海外旅行などの時差ぼけと同じく、1日や2日で修正できるものではありません。早起き早寝をある程度繰り返し、安定して早寝できるようになれば、抗疲労として正解です。
Q.午後に眠気に襲われたら、逆らわず軽く仮眠するようにしています。(47歳・自由業)
A.よいことです。昼食後、午後1〜3時くらいの時間帯に眠気に襲われることをポスト・ランチ・ディップとよびます。ディップは「一時的に落ち込む」という意味で、人の能力が低下する時間帯であることを示します。その理由として、食後は消化に血液がいくので眠くなると言われてきましたが、実際は食事の有無を問わずこの時間帯は眠くなります。南欧の伝統的なシエスタ(昼寝)の習慣は理にかなっているということですね。職場など眠りにくい環境にいる人はデスクにつっぷして仮眠するだけでも違います。短い眠りでも睡眠恒常性の蓄積を減らすため眠気解消に役立つし、昼寝は夜の睡眠の3倍も疲労を回復させる効果があるという人もいるほど。ただし本格的に眠ってしまうと、目が覚めてもぼーっとする睡眠慣性という状態になってしまうため、長くても30分程度におさめてください。夕方以降の仮眠は夜の眠りに影響するのでおすすめしません。
Q.多少無理をしてもシンデレラタイムといわれる夜10時から午前2時の間はできるだけ眠っていられるよう心がけています。(48歳・ネイリスト)
A.その時間帯に科学的根拠はありません。とても多くの人が、夜10時から深夜2時(夜12時から2時という説も)は成長ホルモンが最も多く分泌され、ダメージを受けた肌細胞が修復・再生される美肌のゴールデンタイムという誤った情報を信じていますが、実際はその時間帯でなくとも成長ホルモンはしっかり分泌されています。なぜなら成長ホルモンは深い睡眠の時に出るもので、極端に言えば徹夜した翌朝から昼まで寝た時にも充分に出ているからです。つまり、美容のためにも疲労回復のためにも、大切なのは質のよい深い眠り。夜10時に眠れなかったとしても、がっかりしなくて大丈夫ですよ。
Q.リラックスして眠れるように時々寝酒をします。(40歳・会社員)
ほどほどの量を、あまり睡眠に近くない時間帯で摂るなら問題ありません。アルコールの代謝時間は個人によりますが、体重50㎏でだいたい1時間に7g。ビール中瓶なら20gで代謝に3時間は必要。血中アルコール濃度が高いと寝付きがよく深い睡眠も可能。ただ長期的には深い睡眠は減少し、飲酒しないと寝付けなくなることも。また代謝が進むとアルコール効果はなくなり、早く目覚めて睡眠サイクルを崩しがちなので注意を。
『クロワッサン』949号より
●北村真吾さん/国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部 臨床病態生理研究室 室長。博士(芸術工学)。専門は睡眠科学、時間生物学、生理人類学。日本睡眠学会評議員。日本時間生物学会評議員。日本生理人類学会理事。
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