【奈良への旅①】個性と魅力に満ちた仏像が目白押しの東大寺、興福寺エリア。
【東大寺】
おそらく日本で一番有名な仏像であろう、東大寺の大仏さま。正式な名前は『盧舎那仏』、この世界を広く照らす、光輝く仏さまという意味だ。その造立は日本の仏教がまだ発展途上だった奈良時代にさかのぼる。その後二度の戦火で焼失、現存するのは大部分が近世までに修理されたものだが、奈良に暮らし、奈良を知る人たちにとって、「大仏さま」は今でも特別な存在。今回の取材でも「奈良のお顔といえば」と名前を挙げる人は多かった。やはり大仏さまをおいて、奈良の仏さまは語れないということなのだろう。
大仏殿の大きさに圧倒されながら一歩足を踏み入れると、大仏さまは眼の前にどん! と現れる。その間があまりにすぐで、最初は呆気ない印象すらある。しかしそこからじわじわと大仏さまの凄さがわかるのだ。まず、やはり大きい。遠くからではなく、すぐ近くから20メートル近い姿を見上げることで、初見より迫力が増してくる。大仏さまの背後をぐるりと通れるのもいい。国宝の仏像のまわりを360度歩けることはなかなかない。ゆっくりその姿を見ていると、戦乱や天災に翻弄された不安定な時代に、仏さまに救いを求めた天平の人々の想いが今もその姿に宿っているかのよう。
東大寺では「会っておくべき仏さま」がほかにも挙がった。大仏殿に向かう南大門にどっしりと構える木造金剛力士像は鎌倉時代に作られた国宝。また、(特に女性から)熱い視線を集める四天王立像は、天平時代の傑作。四体のバランスの良さ、“チーム”としての美しさが突出しているのが人気の秘密かもしれない。戒壇堂にあんちされているので、お水取りこと、「修二会」で有名な二月堂から裏参道を下ってそちらへ。東大寺ミュージアムは、「展示はそのときどきに変わりますが、本来なら絶対に見られないような距離感で仏さまを凝視できますよ」と、実は奈良の人からも人気のスポットだ。
●奈良市雑司町406-1 ☎︎0742-22-5511 拝観時間:7時30分〜17時30分(季節により変動) 拝観料:(大仏殿、戒壇堂、法華堂、東大寺ミュージアム)各500円 JR奈良駅、近鉄奈良駅からバスで5〜10分ほど。
【興福寺】
710年の平城遷都の際、藤原不比等によって創建された興福寺は、仏像を訪ねる奈良の旅ならば決して外せない場所。なといっても昨今の仏像ブームをけん引した大スター、国宝・阿修羅像がいる。人気の高さでは他の追随を許さず、美しくも憂いを帯びたその表情は、映画監督の河瀨直美さんに「切なくなる」と言わしめるほど。
三面六臂、上半身裸の立ち姿はすらりとあか抜けており、仏法の守護神となった3つの顔の表情はそれぞれ繊細に違っていたりと、目が離せない魅力に満ちている。この阿修羅像を含む乾漆八部衆像、乾漆十大弟子像をはじめ「ケネディセンターのケネディ頭像に似ているんです」と詩人の伊藤比呂美さんが評する、旧東金堂本尊の銅像仏頭など、見惚れる仏像が目白押しだ。
●興福寺 奈良市登大路町48 ☎︎0742-22-7755 拝観時間:9時〜17時(最終入場16時45分) 2017年12月31日まで国宝館は休館。阿修羅像はじめ八部衆等の国宝は『阿修羅-天平乾漆群像展』にて、3月15日〜6月18日、9月15日〜11月19日に公開。銅像仏頭は12月まで東金堂にて公開。拝観料:900円(東金堂との2カ所共通)
【奈良ホテル ティーラウンジ】
国賓や皇族を迎えるための関西の迎賓館として、明治42年に開業。和洋折衷の優雅なたたずまいに、往時の趣が残るクラシックホテル。さりげなく飾られた名画や、豪華な調度品など贅を尽くした空間を満喫したい。ホテルとしてはもちろん、レストランはショップとしての利用も可能。荒池に面した眺めのいいティーラウンジでは、パティシエが腕を振るったケーキのほか、抹茶と和菓子、サンドウィッチなどのメニューを提供する。
●奈良市高畠町1096 ☎︎0742-26-3300 8時30分〜18時 無休
【志津香 公園店】
創業時の店主が「奈良で美味しいものを提供したい」と思考錯誤して生まれた、釜めし。今年で58年、地元っ子にずっと指示されてきたこの釜めしが評判を呼び、今では観光客が列をつくるほどの人気店に。注文してから直火で炊くアツアツの釜めしは、おこげまでが丸ごとごちそう。昆布と鶏ガラ出汁がベースで、具材は大和肉鶏、かに、えびなどの定番のほか、春のしらす釜めし1,200円といった、季節限定も。行列が苦手な人は、予約可能な大宮店(☎︎0742-93-8029)をどうぞ。
●奈良市登大路町59-11 ☎︎0742-27-8030 11時〜19時LO 火曜、月1回不定休
【工場跡事務室】
大正14年に宮大工が手がけた、乳酸菌飲料の工場。やがて工場が役目を終えて、約30年使われず残されていた、かつての事務室と荷造室を喫茶スペースとして再生。奈良の専門店、香豆舎が焙煎するコーヒー550円、ティーポットで提供する紅茶550円のほか、大和茶のメニューも充実。スイーツや軽食のほか、さわやかな奈良の朝の散歩時に利用したい、朝のセットメニュー1,200円もあり(予約がベター)。
●奈良市芝辻町543 ☎︎0742-22-2215 9時〜18時(金曜は11時〜) 月〜木曜休(祝日は営業)
『クロワッサン』947号より
広告