『女王さまの夜食カフェ マカン・マランふたたび』古内一絵さん|本を読んで、会いたくなって。
人生につまずいたときこそ、物語を。
撮影・中島慶子
ミョウガと若芽の甘酢和え、桃入りの冷たい甘酒スープ、大人のお子様ランチ……。これらはすべて “品格のあるドラァグクイーン” が、店主を務める隠れ家的カフェ「マカン・マラン」で、客に供するメニューだ。作者の古内一絵さん自身、 “こんな夜食カフェがあったら素敵” と思い描く店を舞台にした小説の、第二弾が登場した。
「私、昔は映画の宣伝の仕事をしていまして、毎日のように深夜まで残業していたんです。おなかがぺこぺこで会社を出たときに1人でふらっと入れて、体によくおいしい食事がとれるお店がなかなかなくて。この夜食カフェはある意味、私の理想のお店なのです」
食べ物で癒やされ勇気づけられる主人公たち。古内さん自身も日々の食生活を大事にしていることが行間から伝わってくる。
「ちゃんと作るのは一日一回、夕食だけですが、野菜料理が中心です。 “煮た野菜、生の野菜、発酵した野菜” の3種類をなるべく用意するよう心がけています。といってもみそ汁とサラダとお漬物、ぐらいですが、きちんとしたものを食べると気持ちが安定します。
ドラァグクイーンのシャールさんはマクロビを意識していますが、でも決して頑ななやり方ではない。自分に足りないものを補うとか、中庸に導く、ということを食で実行できたら、というスタンスです」
1冊に収まる4つのエピソードはそれぞれ異なる人物が主人公となっているが、同じ店でのできごとだけに人物同士が次第につながりを持っていく。そんな彼らのリアリティのあるエピソードの数々は古内さんの趣味ともいえる綿密な取材に裏打ちされているものだ。
「人の話を聞くのが大好きなんです。若い男性を主人公にするときは、彼らが抱えている悩みのリサーチのため、知り合いの若い男性に片っ端から質問したり、アンケートに答えてもらったりしました。また、喫茶店で隣の席の女性2人の会話が気になりすぎて、話に加わったことも。いろいろな人の話からわかるのは、はたから見たら何もかも持っているように思われるような人も、実は心の中で葛藤を抱えているということ。それに寄り添うのが小説ではないかと」
小説や物語は、人生につまずいたり、上手く行っていないときの人こそを支える存在だと考えているという古内さん。
「夜中のカフェでの食事や会話に癒やされるように、物語に触れることで少しでもストレスが軽くなったらうれしいですね。私のなけなしの集中力を絞って書いた甲斐があります(笑)」
中央公論新社 1,500円
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