飾るから部屋が片付く。 花のある暮らしのススメ。
撮影・三東サイ 文・黒澤 彩
暮らしの花はさりげなく。植物が空気の流れを生んでくれる。
いつも花のある暮らしができたらどんなに素敵だろう。憧れはあるものの、家をぐるりと見渡してみても、どの部屋も悲しいほどに物であふれていて生活感たっぷり。花をいけられそうなスペースは見当たらない。
「大丈夫です! 家に物がたくさんあるのは当たり前。お店やギャラリーのように飾ろうなんて思わずに、ふだんの生活に馴染む楽しみ方をしてみませんか?」と平井かずみさん。物が多くても、家じゅうを掃除する時間がなくても、花は楽しめる。しかも、花をいけることで部屋がすっきりときれいになる効果もあるのだとか。
フラワースタイリストの仕事を始めた当初から暮らしの中の花を提案し続けてきた平井さんによれば、「わが家では無理」と思い込んでいる人の理由で多いのが、「家がごちゃごちゃしている」「いける時間がない」というものだ。
「そんな人には、私が実践している〝ついでの花掃除〟をおすすめしています」
整理整頓と掃除を完ぺきにした上で花をいけなくちゃと思うから、気が重くなる。まず、花をどこに飾るか決めたら、気になる邪魔なものだけを片づけて、その場で花をいけながら、ついでに周辺のホコリをささっと拭き掃除。一連の流れのなかで、自然にそのスペースがきれいになるというものだ。これなら一念発起しなくても、あっという間に終了。花のある場所にはどうしても目がいくので、日々の水替えのたびに軽く掃除をする好循環が生まれる。
暮らしの花はさりげなく。 植物が空気の流れを生んでくれる。
平井さんは、物が多く散らかりがちな場所にこそ、あえて花を置く。
「植物のように有機的でフレッシュなものがあると、物が多くてよどみがちな空間も清々しく感じられるんですよね。私は枝の動きや曲がった茎の向きをそのまま伸びやかにいけるのが好きなのですが、そうすることで、空気の流れが生まれて風通しがよくなるような気がします」
食器棚にあるふだん使いの器を花器に見立てて。花瓶でなくても、使い慣れた陶器やグラスで充分。むしろ、そのほうが飾ったときにも違和感がなく、こなれて見えるはず。
身近な生活スペースに、いつもの器で。
1.どこにいけるかを決める。物があるからといって敬遠せずに、少し整理して、いつも置いてある物の間に花を飾ることにも挑戦したい。
2.器を選ぶ。初めのうちは使い慣れた器にいろいろな花をいけてみる。ときには食器棚の奥に眠っている器を取り出して使ってみても。
3.器に水を張り、器のサイズに合わせて茎を切っていける。花が重く手前に落ちてしまうときは、花首を器のふちにのせる。
4.物と花とのバランスを引いて見る。いくつかいけるときには、背の高いものと短くカットしたものなど、ボリュームや高さをバラバラにする。
無理にたくさんの花をいけようとしないことも肝心。仕事ではたっぷりの花を扱う平井さんも、自宅に飾るときには控えめな花1輪や、自然な佇まいの枝ものをよく選んでいる。
「生活空間にものすごく華やかなアレンジメントがあったら落ち着かないでしょう? 家にいけるのは、人に見せるためではなく自分や家族が心地よくいるための花だから、さりげないほうがいい。まずは一輪挿しや、同種の花数本を好きな器にいけてみてください」
シンプルに1本ないし数本の花をいけるときは、器の高さ:器から出ている茎の長さを、おおよそ1:1にするといいバランスに。また、ボリューム感の異なる複数種の花をいけるなら、全部を一つの器に入れなくても、写真のように1種類ずつ分けて配置し、その空間全体で一つのしつらいと捉えるのもいい方法。このとき、高さを不揃いにすると空間に奥行きが出る。
「そして、何よりも旬の草花を選ぶことが大切です。外の自然の景色を家の中に取り込むような感覚で。忙しくても、暮らしの中に季節を感じるものがあるだけで、気持ちが整います」
『クロワッサン』934号より
●平井かずみさん フラワースタイリスト/雑誌、広告のスタイリングのほか、東京・自由が丘の『caféイカニカ』を拠点に、全国でワークショップを開催。著書『フラワースタイリングブック』(河出書房新社)など。