フォロワー7万超え!82歳の主婦、
ミゾイキクコさんを知っていますか?[前編]
撮影・岩本慶三 文・一澤ひらり
ミゾイさんがツイッターを始めたのは6年前、75歳のとき。
「当時、総理大臣だった鳩山由紀夫さんがツイッターというものをやっていると知って、面白そうだから私もって思ったのがきっかけですね。興味が湧いたら、何も考えずに取りかかっちゃうのが私なんです。パソコンは独学でずっとやってましたから、そんなに大変なことではなかったんですよ」
ツイートする内容は戦争体験をはじめ、高齢者問題や男女の格差、家族のあり方など多岐にわたる。
〈自分のしたことは自分に返る。それは当たり前のことなのだ。その人が生きたように死んでいくのだ〉。
こんなツイートのように、芯が一本ピシッと通って含蓄に富んだ直言が多く、読むと「よくぞ言ってくれました!」的な共感と、爽快感が胸に広がる。そこにミゾイさんのツイッターが人気を集める理由がある。
「ツイッターを始めて1カ月ぐらいのときに、戦争体験をつぶやいたら、フォロワーがどっと増えたんです。若い人たちに関心を持たれたんですよね。自分がつぶやいたことに反応してくれて、やりとりするのが楽しいし、大勢の人が私のツイッターを通して、お互いに意見交換ができる。敗戦でどうなったとか、こういう生活だったとか、当時の体験を語り始めるんですね。戦争は二度と起きてほしくないという思いが、切実な体験から発しているから、心に響くんだと思います」
主婦歴 55 年、豊富な知識と経験で、 手早く、手際よく料理をアップ。
もうひとつ、ミゾイさんのツイッターの密かな人気は日々の食事の記録。
昨年夫が急逝し、いま一人暮らしのミゾイさんだが、朝な夕な彩りよくきれいに盛りつけられた7〜8品の料理の写真がアップされ、ていねいな暮らしぶりが伝わってくる。
「高齢の単身者だと面倒くさくなって料理を作らなくなる人もいますけど、私は一人だからこそ好きなものを作って食べられるという思いなんです。みなさん、アップした食事にいろいろつぶやいてくださいますから、あだやおろそかにはできません。とはいっても夕ごはんは30分ぐらい、朝ごはんは晩の残りを寄せ集めるだけなので10分でできちゃうんですけどね」
と笑いながら夕食の準備にとりかかるミゾイさん。「主婦歴55年だから、手早いのよ」と言いつつ、トレーに入ったひと口大の鶏もも肉をポリ袋に投入して、そこへしょうゆや酒、生姜のすりおろしなどを入れてもみこむ。
説明する間も手を休めず、調理で出た洗い物も済ませていく手際のよさ!
「毎日作るのは2品ぐらい。多めに作って、小分けにして冷凍しておくんです。これを使い回せば便利でしょ。あとは常備菜ね。まぐろの角煮とか、いぶりがっことかをネットで買っておくの。これは出せばいいだけだから」
好きで集めた小鉢や小皿に料理を盛りつけ、庭からとってきた山椒の葉などを添えて彩りに。
「季節感を大事にしたいし、少量でいろいろ揃えれば栄養バランスもいいでしょ」と心を配る。
夕食ができたらデジカメで撮って毎日夜7時ごろにアップしている。
140字以内でやりとりするツイッターの楽しさに開眼して。
現在持っているタブレットは11台。5年前に買ったカメラがついていないものをはじめに、機種の進化とともに買い足してきた。いま主に使っているのは息子さんが母の日にプレゼントしてくれたiPad。画像がきれいで、見やすいのでお気に入りだ。朝起きたら全機種に電源を入れて充電するのが日課で、パソコンは4台所有する。
「パソコンを始めたのは64歳のときで、夫が退職を機に株を始めて、夫の指示で私がパソコンで株の売買をやるようになったんです。面白かったですよ。それで税金申告のためにエクセルも覚えて。もともと理系ですから、こういうものには自分から飛びついていく感じですよね。ホームページも作ったし、ブログも開設しましたけど、ツイッターを始めたら140字以内という短文で不特定多数の人たちとやりとりする楽しさに夢中になりました」
そしていまは、みんなが言えずにいたことを心おきなく言い合える場にするというのが、自分がツイッターをやっている役目、だと自覚する。
「まだまだ女性は息苦しさを抱えています。舅や姑に苦労している人もたくさんいますよね。そういう気持ちを吐き出せるよう、水を向けるように〈どうして男ってそうなのか理解できませんね。世話されながらいばりちらす。子どもの時からの育てられ方なんでしょうね〉みたいな批判もします」
だからか、フォロワーには共働きで家計をやりくりしながら、親の介護をしている40~50代の女性が多い。
「リアルな声が届きますよ。でも男性はくだらない話ってけっこう言ってくるんです。知らない人は黙ってて! と言いたくなりますね」
『クロワッサン』931号より
●ミゾイキクコ 主婦/1934年生まれ。お茶の水女子大学理学部卒業後、教職に。結婚後は専業主婦。2010年、ツイッター(@kikutomatu)を開始。著書に『何がいいかなんて終わってみないとわかりません。』(KADOKAWA)。
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