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国内旅行に持ち歩きたい一冊。 評・中村剛士|話題の本、気になる本。

『フランス人がときめいた 日本の美術館』ソフィー・リチャード著 山本やよい訳

集英社インターナショナル 2,200円
集英社インターナショナル 2,200円

 気心の知れた友人から、自分自身では気付いていない良さを教えてもらい、ハッとした経験は誰しもがあるもの。そんな歓びに似た感覚を味わえるのがこの一冊です。

 美術史家のソフィー・リチャードさんは日本の美術や文学に造詣が深く、来日を重ねては全国の美術館・博物館を訪ね歩き、その魅力を海外へ発信。元々は、日本を訪れる外国人旅行者向けの案内書として書かれたものですが、筆者独自の審美眼と日本美術をこよなく愛する気持ちが伝わってくる文章は、日本人の私たちが読んでも数多の発見と新鮮な驚きに満ち溢れた内容となっています。

 メジャーな美術館だけでなく、中には「こんな素敵な美術館が日本にあったの!?」とアート通でも知らないような地方の美術館も多く含まれ、また有名無名を問わず、筆者の琴線に触れた個性的な美術館を掲載しているのも、もうひとつの魅力と言えます。(「えっ! あの美術館が入っていないの?」という別の楽しみも味わえます)。喩えるなら、何でも揃う百貨店ではなく、バイヤーのセンスが光るセレクトショップのような案内書。

 一般的な美術館案内は、多くを所蔵作品の紹介に充てているのが常です。しかし、日本美術は特質上、一年中観られるものではありません。年間に展示出来る日数はごくわずか。つまりヨーロッパの美術館ガイドと違い、作品をメインに紹介すると案内書としては不完全なものとなってしまうのです。その一見マイナス点とも思える日本の美術館が抱える問題を踏まえ、この本では、館の成り立ちやたたずまい、雰囲気を紹介することに多くのスペースを費やしています。 これから美術館巡りを始めてみようと思っている人から、年に何十館も観て回るコアなアートファンにまで、全ての人の参考になることでしょう。

なかむら・たけし●アートブログ「青い日記帳」主宰。展覧会レビューをはじめ、幅広いアート情報を日々発信している。

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