#06 フィンランドのサウナで、
裸の女のビールの宴。
文/写真・とまこ
深夜0時30分。デンマークのコペンハーゲン駅に到着。さぁ、早いとこ約束してあるAirBnBの家に行こう。ずっしり重いバックパックを背負って歩き出す。この時は6月、夏至を迎えたばかりの明るいとき。北の人々はだいぶ浮かれてるんだから。今だ! とばかりに、BARの前では多くの人が立ち飲み中。てっぺん回った時間だし、辺りにいるのは口説き口説かれ華やいだ顔の男と女。楽しそ〜。
こっちはへとへと。早朝から長距離移動してたんだ。人々の間をよたよた進む。誰もこちらに目もくれない。「邪魔してごめんね!」心の中ですねてみる……あれ、淋しいとは違う感覚、なにこれ? 状況をちゃんと見て気づいた。みんな背高すぎ! 視界は相手に釘付けで狭まってるは、できあがってるは、きっとわたしは物理的に見えてない、無視じゃないんだ。わたしはキノコ。木々の足元にあるもうひとつの世界に潜んでる。初めて自分をキノコと結びつけた(笑)。
翌早朝、電車と飛行機を乗り継ぎ、フィンランドの首都ヘルシンキへと移動。街に着いたのは深夜2時前。世界には未だぼんやり光がある。夕陽が続いてる……いつから朝日になるんだろ。
眠い目をこすりつつふわふわと歩きだす。石畳のレトロで粋な街並は明らかに西洋の作りなのに、すごくホッとするのはどうして?
男性が話しかけてきた。笑って挨拶を交わし、調子よく振り切る。するとまた違う人が。ん? 昨日とはまるで違う。ノーモアキノコ、本日人間の女です。1日分の移動距離だけで、こんなに街も人も感覚が変わる? そもそもフィンランド人って、シャイで奥手だと思ってた。しばし理由を考える……背はデンマーク人より少し低めで、顔の彫りは少し浅め。雰囲気が微妙にアジア人に歩み寄った? 街だけでなく、人々にも同族のホッ、を感じているのかも。人間関係は鏡。自分がホッとしているから、相手もそう感じて話しかけやすい?
深夜3時前、『Hostel Erottajanpuisto』に到着。こんな時間でもスタッフさんの対応はとっても親しみやすく、家に帰ってきたみたいに落ち着く。言葉や態度のニュアンスが日本人に近いのかな? すべてが初めてのこの街で、すべてにホッとしていることに、いちいち驚く。
翌朝、地元の人御用達のサウナを知りたくて、スタッフさんに聞く。こちらの意図を汲取り、どこがあうか考え、行き方を丁寧に教えてくれた。言動の端々から、今、目の前にいるあなたを満足させたい、という個人的な思いが伝わってきてとてもやさしい気持ちになった。気づくと後ろに質問の行列が。こんな宿、初めて見た(笑)。
トラムの駅へ行くとちょっと混乱。隣の若い男性に聞くと知らないみたい。けど、自分が乗るトラムもやりすごし、iPhoneや路線図を見比べ解決してくれた。わかったときのにっこりは心底やわらかくて。う〜んありがたい、幸せ。ただ、申し訳ないけどよぎった思いも。深い親切には見返りへの期待がある? 遊びに行こうって誘われるかな。悪くないけど迷うな。するとトラムがやってきた。彼はわたしをエスコート、乗り込ませると、ホームから満足そうに手をふった。ひたすら爽やか……自分、恥ずかしすぎる、反省しろ!
裏表のない無償の親切の連続でどんどんこの国を好きになる。
サウナに到着。フィンランドのサウナといえば、湖の畔にある木の小屋で、熱くなったら冷たい湖に飛び込むのをイメージするかもしれない。しかも男女混浴の。わたしもそうだった……違いました! そうだここは都会の真ん中、当然か。普通の建物に入り受付をすると、さらに男女別浴と判明。ちょっと複雑(笑)。ドイツで裸混浴を図らずも体験し、新しすぎる感情が呼び覚まされておもしろかったんだ。ホッとしつつも、新たな思考の扉を逃した感は否めず(笑)。
平日の16時。他のお客はいない。更衣室には大きなテーブルとイス、鍵つきのロッカー。そして隣はシャワー室。裸になったら体を濡らしてその奥のサウナへ。日本のとほぼ同じ木の段々作りだ。温度は80度くらい? 温泉民族にとっては朝飯前。そこに30代くらいの女性がわさっと5人入ってきた。「モイ(=Hi)!」挨拶を交わすと、5人はスゴい勢いで盛り上がり楽しそ〜♪ ひとりがバケツに水をくんできて、熱い石が積み重なった熱の源へ、柄杓でジャッと水をかける……もわ〜! 堪え難いほどの熱気がサウナ中を埋め尽くし……全員シャワー室へ避難(笑)。水を浴びたらタオルを巻いて更衣室へ。もう終わり? いやいや、これからが本番だった!彼女らは、テーブルにビールとポテトチップス、チョコレートをどっさり広げ、裸の宴が始まった。会話はさらにヒートアップ! 日本には「裸のつき合い」という言葉があるけど、彼女たちもきっと、いつもより親密な話をざっくばらんにしてるのだろうな。それにサウナで毒素を出したから、気兼ねなくまた危険物を摂取できるという安心感もあるはず(笑)。サウナに入って、飲んで食べて、サウナに……を繰り返すそう。わたしも仲間入りさせていただこうっと。
聞くと、彼女たちは、webで知り合った読書サークルの仲間だそう。毎月一冊選んで各々読み、こうして集まって感想を交わしたり議論したり、もちろん雑談もね。なるほど。ムーミンの国の民はやることが文化的だ。ちなみに5人にはみんな家庭がある。このときは仕事帰りで、お子さんの面倒はパパが見ていると。「当然だわ、男も女も同じよ」と、口を揃えて答え、ビールをゴクリ。
パートナーとの結婚事情についても質問すると……5人中2人は結婚していた。3人は特に必要性を感じないから未婚で、きっと先もしないと。ヨーロッパでよく聞いていたケースだ。
では、なんで2人は結婚したんだろう。ひとりは「お金のためよ。当時ちょっと事情があって」と笑い飛ばす。もうひとりは「完全にロマンスね」当時を見ているのか、遠くを見つめ乙女の顔に。なるほど。これでいいんだ。その瞬間に信じる幸せの道を素直に選べば。そのときどきの幸せを積み重ねれば。
バツイチ未婚のわたしについていうと、結婚は当然するものと思っていたからした。あ、ちなみに充分幸せでしたよ(笑)。今は機会がない訳じゃない。したくない訳でもない。子供がいるわけでもないし。ここは日本、ヨーロッパではない。日本の制度のもと暮らすのが大前提ではあるけど、心に制度はないから。結婚してる方も独身のみなさんも、心自由に、今、自分が生み出せる幸せを享受して喜ぶ日々の繰り返しが幸せな未来なんだろうなって、なんか思った。
今、生み出せない幸せを見ることも必要だと思う。でもそれは、今の幸せを享受した次の段階なんだ、きっと。