『ごみのはての』著者 佐佐木陸さんインタビュー ──「人間の価値の境界にあるのは死」
撮影・園山友基 文・一寸木芳枝
ゴミを吐き出しているようにも、ゴミに飲み込まれているようにも見える近代数寄屋造りの一軒家。会話が成立しているのかも不明な家主の老婆が暮らすその家に、自治体からの要請で掃除にやってきた便利屋の面々。彼らの1日を描く本作の序盤は、生々しいゴミの描写の中、登場人物それぞれの胸の内と掃除の過程が個々の視点で描かれていく。
「便利屋の友人のブログを読んでシンプルに自分ならゴミ屋敷を書けると思えたこと。それと、不思議な老人の方と出会う機会が多い自分の経験を重ねたら面白いかもしれないと思ったんです」
デビュー作『解答者は走ってください』で文藝賞優秀作を受賞した佐佐木陸さん。この2作目は、「現実世界を描くこと。リアルな人間を書くこと」を意識したという。
居間、食堂、キッチン、茶室、中庭。地層のように重なり合うゴミの山の圧倒的な情景描写は、臭いや感触もリアルで息をすることすらためらうほど。だが、お茶だと思って飲んだペットボトルの中身が尿だったり、合間に起こる数々の珍事に思わず笑ってしまう場面も。
「以前、石材店で働いていた時に無縁仏を新たな場所に移動させるという業務に携わったことがあって。骨の山をスコップで出して小分けにして運ぶのですが、最初はみんな倫理的な葛藤があって、動けないんですね。でも誰かがその殻を破ると、段々場が和やかになって、最後には妙な連帯感まで生まれていました(笑)。労働というのは、ただつらいだけでなく、笑いで緩和する面があるというのは、その時の実体験が元になってます」
どこへ向かうかわからない混沌が終わりを迎える時
百万円をなくし“黒字倒産”に怯える社長、アルコール依存症の江田島、整形を繰り返す馬場、陸上部を怪我で辞めた大学生・韮崎、宇宙飛行士の夢を算数障害で断念した浜松。やがて彼らがゴミの地層から見つけた“あるもの”をきっかけに、物語は急転。突如、覚醒したように話し始める家主の老婆や闖入者の登場によって、現実と非現実、生と死、本物と偽物、その境界線が揺らぎ始める。
「どうにもならない構造や世界の仕組みに対して、抗いたいという気持ちが自分の中にはあって。価値のあるものとそうでないものを決めるのは一体誰なんだろう、というのもそう。もっとも身近で象徴的なものはお金ですが、じゃあ人間の価値と無価値の差は? 僕はその境界は死だと考えました」
怒涛のラストは、すべてが無価値となった世界に“ある歌”が響く。
「公園を歩いていた時に、隣接する幼稚園から聞こえてきたことがあって。歌詞を理解していないだろう園児たちが全力で歌うこの曲に、微笑ましいとかではなく、純粋に感動したんですよね。こんなにも人に影響を与えるんだ、って。でも生きるってそういう連鎖なのかもしれません」
“衝撃のハウスクリーニング小説”、そのコピーに偽りなし、の一冊だ。
『クロワッサン』1160号より
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