『痛いところから見えるもの』頭木弘樹 著──人に伝わりにくい「痛み」をひもとく
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
最近“分かり合えなさ”について考えることが多かったので、本書は沁みた。刺さりまくった。
痛みの種類はさまざまで、言語化が難しく人に伝わりにくいこと、痛みの大小で苦しみを比較できないこと、瞬間的な痛みと持続的な痛みの違い、同じ痛みでも辛さには個人差があること……。
文学紹介者として多くの著作のある著者は、20歳の頃から13年間、難病の潰瘍性大腸炎の闘病生活を送り、長年にわたりさまざまな痛みを経験している。その実体験を交えつつ、文学作品の痛みについて書かれた部分を引用しながら、丁寧に解説してくれている。
以前、深刻な痛みをともなう体調不良に陥った時、実感したことがふたつある。「この大変さが人に伝わらない」というもどかしさと、「以前、同じ状況になった人の大変さに理解を示したつもりだったけど、私はぜんぜん分かってなかった」ということだ。読みながら、自分自身が「痛い人」と「痛い人のそばにいる人」の間をいったりきたりした。
自分も読んだ文学作品にも痛みに言及した箇所がいろいろあったことにも気づかされた。今後は読書の際、痛みの描写にもっと注目したいとも思った。
『クロワッサン』1152号より
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