野田秀樹×勘九郎の人気作が20年ぶりの再演! 『野田版 研辰の討たれ』の稽古場レポート
文・クロワッサン編集部
東京・歌舞伎座の「八月納涼歌舞伎」第三部の演目は『野田版 研辰(とぎたつ)の討たれ』。平成13(2001)年初演、五代目中村勘九郎(のち十八世勘三郎)さんと野田秀樹さんがタッグを組んだ野田版歌舞伎の第一弾でした。その後平成17年に十八代目中村勘三郎襲名披露狂言として上演されて以来、この8月に20年ぶりに再演されます。勘三郎さん演じた主演の辰次を六代目勘九郎さんが、松本幸四郎(当時七代目市川染五郎)さんが演じた平井九市郎を八代目染五郎さんが演じます。
大まかな物語は、元は刀の研ぎ屋でお調子ものの辰次がひょんなことから家老の平井市郎(幸四郎さん)を死なせてしまい、仇撃ちを誓う息子の九市郎と才次郎(勘太郎さん)兄弟に追われるというもの。
再演を前に、記者会見と通し稽古の公開を実施。野田秀樹さんと俳優陣が意気込みを語りました。
野田さん「初めは勘三郎の面影を追ってしまうところもあった。勘九郎の声だけ聞いていると、あれ勘三郎かな、みたいな。でも稽古が進んでいくうちに新しいものになってきたと思う。若い人たちもすごく良くて、新鮮な舞台になっていると思います。
世代交代しているのに自分だけ生き残っちゃって申し訳ない気持ちになりますが、まあそれが演出家の得なところではあります。勘太郎時代のものを勘太郎が、幸四郎の役を染五郎が…というのを見ていると、歌舞伎っていうのはずっとこうやって変わりながら作品が残ってきたんだなと思います。私は20何年かけて歴史的なものを見ることができる、得した気分です」
勘九郎さん「前回の父の襲名披露のときに、稽古期間にうちの父と(坂東)三津五郎のお兄さまが『これが古典になって残っていったらいいねえ』と笑いながら言っていたんです。それを今回できることが嬉しいです。けど、この研辰は正直、自分は演らないかなと思ってました。あまりに父そのもので、父が憑依していましたので。 でも今回こうしてお話をいただいて、新しい世代の皆さまと作り上げるっていうのは本当に楽しいです」
幸四郎さん「初演当時、勘三郎のお兄さんが『歌舞伎の作家が生きている、演出家が生きているというのが嬉しい』と言っていたのを覚えています。当時はあまり新作歌舞伎がなかったので。全てにもうキラキラキラキラしていた、活気あふれる稽古場で、誰も観たことのない新しいものを作ろうという熱気がありました。その本作をまた見ていただけるときが来てうれしい限りです」
染五郎さん「『研辰』は映像で小さい頃から何度も見た作品で、 あのセリフ、 あの音楽、 あのセットの中に自分がいるということをまだ信じられないです。父がやっていた役をやるっていうこともまだ信じられないですし、 そして勘太郎くんと兄弟役というのもこんなに早くできると思ってなかったので、 まだ何もかも夢のようです。野田さんの作品の特色であるテンポ感、そういうものきっちりと乗って、自分もそのテンポを作れるように頑張りたいなと思っています」
七之助さん「初演の時の稽古は今でも鮮明に覚えております。 うちの父に死ぬほど怒られたという……。
そうしたら野田さんが『僕が演出家だから』って、 父親にダメ出しをしました。憧れの大好きな福助のおじの役を私が演らせていただくのは今でも不思議な感じです。ああ『研辰』に出てて、およしをやってる、『あっぱれじゃ!』って言ってるっていうのが不思議ですけれども、こんなに素敵な作品にまた携われて本当に嬉しいです」
勘太郎さん「ちっちゃい頃からずっと『研辰』を観ていて、才次郎にすごく憧れてたので、 嬉しいというか驚いている感じです。毎日毎日楽しく演っています」
長三郎さん「僕も兄と一緒に小さい頃からずっとを見ていて、 それで8月に兄が才次郎をやるってなったときに
『ノリ(本名の哲之〈のりゆき〉)も出るよ』って言われて。 そんな役あったっけ?って思ったら新しい役で。緊張しているけど、ずっと見てた憧れの作品に出させてもらうっていうのは、 本当にありがたいです」
野田秀樹さんが今回の再演にあたり、
「勘太郎くんが16歳ぐらいだと勝手に思って役につけて。 それで実は14歳だって知った時に『14歳の子にここを任せて、大変だよなー本人』って思ったりしましたけど、 稽古が進んで、3日目に役者が化けるというのはこういうことかなっていうぐらいパッと変わりまして。その日は多分家で相当(稽古をしたのでは)…」というと
勘九郎さんが「いややってないです!それは(自分が初演時に勘三郎さんに)やられて嫌だったからやってないです」。
「でも今ときどき舞台上で自分の役を忘れてダメ出しをしてるよね? その姿がちょっと25年前の勘三郎に重なる」(野田さん)
「やらないつもりでいたんですけどね。なんかちょっと出ちゃったみたいです」(勘九郎さん)
「八月納涼歌舞伎」第三部『野田版 研辰の討たれ』は8月3日(日)から26日(火)まで。出演は他に中村扇雀、市川中車、坂東新悟、市川猿弥など。午後6時15分開演。
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