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『流星と吐き気』金子玲介 著──実を結ぶことはあるか、終わった恋への執着

文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。

文・瀧井朝世

『流星と吐き気』 金子玲介 著 講談社 1,980円
『流星と吐き気』 金子玲介 著 講談社 1,980円

元カレ・元カノをめぐる短篇集。「恋なんて遠い日の花火」状態の人は他人事だと思ってニヤニヤして読むだろうし(私だ)、元恋人の思い出を引きずる人が読んだら正気に戻るかもしれない(失礼)。

恋人と別れた後の精神状態は、その恋によってケースバイケース。忘れられなくて引きずることもあれば、「相手はまだ自分のことちょっとは好きなんじゃないか」とほんのり期待している場合もあれば、すっきりさっぱり引きずらないこともある。では、それぞれが元恋人と再会したら、いったいどんな反応をしてしまうのか。

収録された5篇は、恋の後のさまざまな心理を、絶妙なシチュエーションとひねりのきいた展開で描き出す。読者も誰かに執着した/された経験を思い出して、痛みを感じたり、苦笑いしたり、恥ずかしさに身悶えしたり、あるいはムカついたりするかもしれない。

面白いのは各話の登場人物が次の話にも登場することだ。前の話で主人公を振った人物が次の話で手痛い振られ方をしていたりして、こういう情けない思いって誰もがしているんだよね、と、なんだか安心させてくれる。失恋の痛手を引きずっている人がいたら無言でこの本を差し出したい。荒療治だ。

  • 瀧井朝世 さん (たきい・あさよ)

    ライター

    著書に『ほんのよもやま話〜作家対談集〜』『偏愛読書トライアングル』など。

『クロワッサン』1146号より

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