『冷ややかな悪魔』石田夏穂 著──海外出張のために体脂肪率を減らせ!
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
前から言っているけれど、仕事×筋肉といえば石田夏穂で間違いない。まあ、この組み合わせで小説を書く人が多いわけではないが。
商社勤務のユカリは、新卒で入社して以来出張で海外を飛び回る生活を続けて現在37歳。しかし突然、丸の内の本社に呼び戻される。社員の健康管理のため、新ルールで男性は体脂肪率20%以上、女性は30%以上は海外出張禁止となったというのだ。ユカリの体脂肪率は現在35%。少しでも早く海外に戻れるようにと彼女はジムに入会。トレーナーとの会話が弾まない気まずさは拷問級だが、順調に脂肪を落としていく。
職場では、部長には婚期を逃した女性と見なされたり、同僚には日本に戻ってきたことを「そろそろ身を固める」からだと勘違いされたり。いまだ既婚か未婚かを重要視する風潮にうんざりし、〈早く海外にトンズラしたいなあ!〉と思うユカリである。が、ジムで、とある落とし物を拾ったことから、彼女の心境に変化が……。
古臭い価値観に対する皮肉を、ユーモアたっぷりに描き出す。終盤、トレーニングで自己肯定感を得たユカリが本来のパワーを取り戻す姿は痛快以外のなにものでもない。心の底から応援したい。
『クロワッサン』1143号より
広告