『エッシャー完全解読 なぜ不可能が可能に見えるのか』近藤 滋 著──あの有名な騙し絵の細部のこだわりに驚嘆
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
十代の頃、自室にエッシャーのリトグラフ「上昇と下降」のポスターを貼っていた。ゆがんだロの字型の建物の上に無限階段があり、上り続ける人々と下がり続ける人々が列をなしている。不可能図形「ペンローズの階段」を元ネタとした騙し絵だ。エッシャーの図版集も持っていて、他の作品も舐めるように眺めたものだ。が、ここまで緻密な工夫が凝らされているなんて、私は本書を読むまでまったく気づいていなかった。もう、めちゃくちゃ面白かった!!
「上昇と下降」、「物見の塔」、「滝」といった有名な不可能建築の作品等について分かりやすく解読してくれる一冊。ぱっと見で違和感を抱かせないよう、細心の注意が払われていることに驚嘆。「上昇と下降」では各辺の階段の段数や幅を調整し、見る者の注意を逸らすような塔や屋根を配置し、奥の階段を上る人を猫背にして小さく見せて遠近法の効果を出している、等々。指摘される箇所全部憶えていたのに、私は作者の意図にまったく気づいてなかったよ!
他の作品の解説もすべて読み応えがあった。完成度の高さを目指して計算し尽くし、作品にアイデアを詰め込んだエッシャー本人への敬意も高まったのだった。
『クロワッサン』1143号より
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