薪火料理と星空に癒される、宿まれる薪火ダイニング「song(ソング)」。長野県小諸に大人の隠れ家が誕生
撮影・文 岡のぞみ
痩せた大地が実りの土地に
オーベルジュ「song」のオープンした地・御牧ヶ原は、かつて「悪地山」と呼ばれるほど痩せた土地だったそう。しかし、御牧大池をはじめとする400以上の溜池でのかんがい整備や、キノコの菌や微生物など、自然の力を活かした土壌再生などが行われ、今では豊かな農作物が育つ地へと生まれ変わりました。
この大地の再生とともに育まれてきた、自然と文化を五感で味わうことのできる「song」。名前には、「歌」や「風の音」、さらにベトナム語で“生きる”“暮らす”という意味が込められています。運営するのは、長野県小諸市に構える創業126年の老舗温泉旅館「中棚荘」。この土地の文化や自然を多くの人に知ってもらいたいと生まれた、全12席のレストランと宿泊施設を併設した薪火料理のオーベルジュです。
大地の恵みを感じる“フォレイジング”
「song」では、野草や山菜、キノコなど、旬の食材をシェフ自らが採取する「フォレイジング」という手法を取り入れています。これは、野山や森を歩いて自然の食材を自分の手で見つけるという調達スタイルで、食材がどこから来たのか、どのように育ったのかなど、その背景までを含めて料理に反映することができます。
近年では、料理そのものだけでなく、「どうやって食材と出合ったか」も料理の一部として捉える考え方が広がっており、レストラン業界でもフォレイジングが注目されています。「song」の利用者も希望すれば同行可能。敷地内を一緒に巡り、土地や植物の話を聞きながら、ノビルやセリなどを採る時間は、食事をより美味しくいただくための準備運動のよう。
薪火だけで仕立てるひと皿
「song」で使用する食材のほとんどは長野県で採れたもの。シェフ自らが小諸・御牧ケ原を中心に信州各地を巡り、納得できたものだけを提供しています。
調理の際には、電気やガスを一切使用せず、フォレイジングで採取した野菜や地元で獲れた鹿肉などを、薪の火だけでじっくりと調理します。鹿肉を薪火で燻し、鰹節のように薄く削ったり、葉わさびのオイルを添えたりと、一皿にこの地ならではの食文化が表現されています。塩麹やコンブチャ(紅茶や緑茶などのお茶を発酵させて作られる発酵飲料)など、発酵の力を積極的に使っているのも特徴の一つ。
料理を手がけるのは、長野県茅野市出身のシェフ・田村周平さん。東京・恵比寿のレストランで修業後、スペイン・サンセバスチャンやオーストラリア・メルボルンのレストラン「BRAE」でも研鑽を積み、自然と共生する料理に辿り着きました。
風の丘で育まれる、個性豊かなワイン
料理に合わせるのは敷地内にあるジオヒルズワイナリーのもの。醸造責任者の富岡隼人さんの奥さまがベトナム出身ということもあり、ワイナリーの名にはベトナム語で“風”を意味する「ジオ(Gió)」が用いられています。「風の吹く丘」の名にふさわしい、風通しの良い高原の地に位置しています。
標高約800メートルに位置するこの土地は、日中と夜間の寒暖差が大きく、果実に豊かな酸と香りをもたらします。右岸と左岸で異なる土壌は、ワインに繊細さと力強さという二面性を与えてくれるそう。ジオヒルズがある左岸の土壌は、粒子が細かい粘土質のため、ブドウの木は根を張りにくい環境ですが、一度根を張ると力強く育つためパワフルな味わいが特徴です。
「song」では、ワインとのペアリングはシェフが決めるのではなく、ゲスト自身が自由に選ぶスタイル。その時の気分や好みを伝え、スタッフと一緒に選ぶ時間も楽しい。
星空に包まれて過ごす、静かなひととき
1日1組限定で、「song」に宿泊も可能。満天の星空を見てほしい、という思いから、照明は最小限に抑えられています。灯りを落とすと、夜空に瞬く星々がくっきりと浮かび上がり、自然と一体になるような静けさに包まれます。
部屋にはワインセラーが備えられているので、ディナーで開けたワインをそのまま寝室へ持ち帰ることができるのが嬉しい。シェフと会話をしながら食事をしたり、ワイナリースタッフとともにぶどう畑を歩くなど、まるで醸造家の家に招かれたような滞在が楽しめます。
肩の力を抜いて、大地の恵みに耳を澄ませてみる。そんな旅の時間を過ごしてみては。
song(ソング)
住所:長野県小諸市山浦富士見平5656
営業日:ランチ土・日 11時〜14時30分、ディナー木〜日17時30分〜21時30分
料金:レストランコース料理 19,800円、ドリンクフリーフロー:8,800円
宿泊料金:22,000円/1名
※2025年8月1日以降は宿泊料金が変更になります。
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