在宅介護9年目、家族に加わった夫が解決した「母の徘徊」——増山弥生さん「在宅介護のマイルール」

栃木県の山あいで暮らす増山弥生さんは、現在、母親の久子さんと夫の正次さんとの3人暮らし。

久子さんに認知症状が出始めたのは、まだ弥生さんは東京で、父母ふたりは栃木で暮らしていた2014年頃。新しいことを覚えられず、おかしな言動が見られたが「“天然キャラ”だったのでわかりづらかった」と弥生さん。

気にかけているうちに、父親の健吉さんが脳梗塞で倒れ、後遺症による半身不随で寝たきりに。久子さんは車を運転して健吉さんが入院する病院に毎日顔を出したが、事務手続きなどは理解できなくなっていた。

そこで弥生さんが、週末に東京と栃木を行き来して健吉さんの闘病生活を支え、その合間に久子さんをかかりつけ医に連れて行って認知症の検査をした。

結果はアルツハイマー型認知症。久子さんは67歳だった。

「早すぎる……」。弥生さんは少しでもよくなってほしいと、認知症に関する本を読んだり、著者が推薦する医師をかかりつけ医に変えたり、サプリメントを久子さんに飲んでもらったりしたが、際立つ効果は見られなかった。

弥生さんが覚悟を決めて栃木に戻ったのは健吉さんが亡くなった2017年のこと。病気とはいえ、変わりゆく母親の姿を目の当たりにする日常はつらかった。友人らはまだ介護には無縁で、共感し合える相談者が身近にいなかった弥生さんは、一人で泣く時間ばかりが増えていった。

夫の正次さんとは、弥生さんが2019年に栃木でオープンした雑貨店で知り合った。障がい者の就労支援の一環で無農薬の野菜づくりをする事業所勤務の正次さんは、久子さんの認知症にも理解があった。

認知症の行動変容には段階があるが、正次さんと出会った頃、久子さんには徘徊行動が見られた。朝に夕に、目を離すと家を出て行く。その行動に理由があると考えた正次さんが、ある晩、一緒に歩いて話を聞くと、久子さんは“みよこちゃん”という人物を探していた。

弥生さんが叔母に尋ねたところ、なんと“みよこちゃん”は実在し、久子さんが子どもの頃に近所に住んでいた幼なじみだった。

叔母の計らいでさっそく2人は再会。久子さんは大変感激し、しばらく余韻に浸るほどで、その後、徘徊をぱたりとやめた。ニューファミリーになった正次さんの最初のファインプレーだった。（次回に続く）