古都の情景に思いを馳せて。和歌に詠まれた地を巡る旅
撮影・河野 涼 文・齋藤優子
宇治|宇治川(うじがわ)・喜撰橋(きせんばし)
琵琶湖から大阪湾へと続く淀川の、主に京都府部分を宇治川という。喜撰橋は河岸と中州にかかる朱塗りの橋で、下をとうとうと水が流れる。宇治は平安貴族の別荘地だったとされ、網代木などを歌枕にたくさんの歌が詠まれた。『源氏物語』最終10帖の舞台でもある。
◆京都府宇治市宇治塔川
JR「宇治」駅から徒歩15分。
朝ぼらけ
宇治の川霧
たえだえに
あらはれわたる
瀬々の網代木
花の色の
折られぬ水に
こす棹の
しづくもにほふ
宇治の川長(かはをさ)
[解説]鎌倉時代の詩歌合(しいかあわせ)において、〝河上花〟という題に対して、定家が詠んだ一首。
「大沢池の水面に映る菊を詠んだ歌もこの歌もそうですが、花を花そのものとともに、水を介して間接的に捉えているのが印象的です」
上賀茂|上賀茂神社(かみがもじんじゃ)
神代の昔、本殿の北北西に位置する神山に、賀茂別雷大神(かもわけいかづちのおおかみ)が降臨したことを起源とする古い神社。それだけに境内を流れる“ならの小川”など、多くの和歌に詠まれており、紫式部が詠んだ片岡社(かたおかのやしろ)は縁結びの神様としても有名。毎年4月には和歌の宴が行われる。
◆京都市北区上賀茂本山339
TEL.075・781・0011
開門8時30分~17時
京都市バス4系統「上賀茂神社前」下車すぐ。
ほととぎす
声待つほどは
片岡の
杜のしづくに
立ちや濡れまし
神山の
春のかすみや
ひと知らに
哀れをかくる
しるしなるらむ
[現代語訳]神山にかかっている春のかすみよ。それは、私たちの知らないうちに神が憐れみをかけ、愛情を寄せてくれているしるしなのだろう。
[解説]神山は(こうやま)、上賀茂神社の祭神が舞い降りた地とされ、上賀茂の歌枕にもなっている。「60人が参加した上賀茂神社の歌合で弱冠17歳の定家が詠んだ歌。春霞とは、遠くの景色がぼやけて見えるさま。この歌を通すと山がまた特別な存在に感じられます」
『クロワッサン』1137号より
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