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古都の情景に思いを馳せて。和歌に詠まれた地を巡る旅

京都在住の歌人、永田紅さんを案内人に、主に春の和歌にちなんだ地を巡りました。歌は、一度見た景色にも新たな彩りを添えてくれるはず。

撮影・河野 涼 文・齋藤優子

「歌が一首あると、目の前に広がる景色が違ってきます。詠われた鳥の声や水の音などが感じられると、一気に距離が縮まりますから。そもそも紫式部や藤原公任(ふじわらのきんとう)らが詠んだ場所と同じところに、千年の時を超えて立っているなんて、それだけでも感慨深いものです」

と、永田紅さん。山並みなど往時とさほど変わらぬであろう景色も残る京都だからこそ、その感慨もひとしお。

「和歌は古い言葉を残すための器でもあります。朝の早い時間を表す言葉にしても、“朝ぼらけ” “つとめて” “東雲(しののめ)”など使い分けて詠う。そうした美しい響きを肌で感じながら眺めると、知っている景色にも新たな発見があるかも」

詠われた名所はまだまだある。『歌枕辞典』などを参考に巡ってはいかが。

嵯峨|旧嵯峨御所(きゅうさがごしょ) 大本山(だいほんざん) 大覚寺(だいかくじ)

古都の情景に思いを馳せて。和歌に詠まれた地を巡る旅

平安初期、嵯峨天皇の離宮として建てられ、後に大覚寺となった。天皇が唐(中国)の洞庭湖の景色に憧れて作ったとされる日本最古の庭池が大沢池(おおさわのいけ)で、そこに水を入れるために作ったのが、和歌に詠まれた名古曽(なこそ)の滝とされる。嵯峨菊ゆかりの寺としても知られている。

◆京都市右京区嵯峨大沢町4 
TEL.075・871・0071 
開門9時〜17時 無休 
参拝料500円 
JR「嵯峨嵐山」駅から徒歩約20分、市バス・京都バス「大覚寺」下車すぐ。

古都の情景に思いを馳せて。和歌に詠まれた地を巡る旅

一本(ひともと)と 
思ひし菊を 
大沢の 
池の底にも 
誰か植ゑけん 

紀友則 『古今和歌六帖』
 
[現代語訳]菊は一本だけだと思っていたのに、大沢の池の底にも誰か植えたのだろうか。
 
[解説]かつて宮中などでは、菊の花を持ち寄って歌を付け合う“菊合(きくあわせ)”という風流な遊びがあった。これは、その菊合で平安時代の歌人、紀友則(きのとものり)が詠んだ歌。「水面に映る花の姿を、まるで池の底から生えている菊のようだと捉えています」春になると、その水面には、大沢池を囲むように咲き誇る桜が映り、絵画のような美しさ。
古都の情景に思いを馳せて。和歌に詠まれた地を巡る旅

滝の音は 
絶えて久しく 
なりぬれど 
名こそ流れて 
なほ聞こえけれ 

藤原公任 『千載和歌集』
 
[現代語訳]滝の水音は聞こえなくなってずいぶんになるけれど、その名声は世に流れ伝わり、いまなお聞こえてくることだよ。
 
[解説]嵯峨天皇の死後、荒れ果て、水が枯れてしまった庭園の滝を藤原公任が詠んだ歌。「現在は“名古曽の滝跡”として滝の流れを再現。公任が聞くことが叶わなかった音を、千年後の我々が歌とともに味わえるのが面白い。滝の形が変わっても、一首を通して昔の人とつながれるような気がします」

大原野|天台宗(てんだいしゅう) 勝持寺(しょうじじ)

古都の情景に思いを馳せて。和歌に詠まれた地を巡る旅

飛鳥時代に建立された古刹で、歌人でもあった西行(さいぎょう)法師ゆかりの寺として有名。西行は23歳の時、この寺で出家し、その際植えた1株の桜は“西行桜”と名付けられた。現在、3代目となる西行桜をはじめ、境内には100本にのぼる桜が植えられ、花の寺とも呼ばれる。

◆京都市西京区大原野南春日町1194 
TEL.075・331・0601
開門9時30分〜16時 
参拝料500円 
阪急バス「南春日町」下車徒歩15分。

古都の情景に思いを馳せて。和歌に詠まれた地を巡る旅

願はくは 
花の下にて 
春死なむ 
そのきさらぎの 
望月のころ 

西行 『続(しょく)古今和歌集』
 
[現代語訳]願うことには、花の咲いている下で春に死にたいものだ。(釈迦入滅の)二月十五日の満月のころに。

[解説]桜を愛し、桜の歌を数々残した西行は、この歌に詠んだとおり、旧暦の2月16日(3月後半)に73歳で亡くなったとされる。「勝持寺はいまも桜の名所。3月下旬〜4月上旬には、紅枝垂れ桜やソメイヨシノが境内を埋め尽くし、古刹を薄紅色に染めます。この歌を知って眺めると新たな感慨が湧くかもしれません」

阿弥陀如来を祀る本堂にて。お参り後、石段を下りると、西行桜が植えられた境内に
阿弥陀如来を祀る本堂にて。お参り後、石段を下りると、西行桜が植えられた境内に

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