三十一文字の中に世界を閉じ込める——短歌を味わい、作ってみよう
撮影・幸喜ひかり イラストレーション・浅妻健司 文・一寸木芳枝
歌人ふたりが、お互いの歌を好きな理由
短歌を通じて交流を深める加藤千恵さんと岡本雄矢さん。お互いの歌集から好きな歌を選び、その魅力とあふれる想いを手紙にしたためてもらいました。
加藤さんの著作から、おすすめの一首
「幸せにならなきゃだめだ 誰一人残すことなく省くことなく」
加藤さんへ
十五年ほど前。短歌なんて知らず、加藤千恵さんの名前も知らなかった時に、たまたま図書館で手に取った本の中にこの歌がありました。
僕は「本当にそうだよな」と強く思いました。こんなに共感できる歌を作れる人はどんな人なのだろうと、著者の名前を調べると、僕と同い年で同じ北海道出身でした。
それから短歌をはじめ、いつか会えたらと思っていた加藤さんと先日会うことができ、そして今、誌面で共演させてもらっています。加藤さん、僕は省かれず幸せになれました。(岡本)
↓
岡本さんへ
そうおっしゃって(書いて)いただけて、こちらも省かれず幸せになれました!ありがとうございます!
『ハッピーアイスクリーム』の短歌はどれもわたしが高校時代に書いたものなので、今見返すと、過去の日記のように恥ずかしくなるものも多いのですが、こうして届いているのだということに、それ以上にありがたい気持ちになります。
すべての短歌はそうだと思うのですが、この短歌はわたし自身も二度と書くことができないし、だからこそ残せてよかったです。(加藤)
『ハッピー☆アイスクリーム』(加藤千恵著、集英社文庫、462円)より
2001年に発表されたデビュー作の短歌集に、小説5編を加えた作品集。甘く切ない感情や何げないシーンを切り取る繊細な感性と、17歳のまっすぐで鮮烈な言葉が光る。
「上等だ あたしはあなたに出会えたし2人で笑い合ったりできた」
加藤さんへ
加藤さんは誰もが知ってる言葉で、誰もが思ったことのあることを、誰も言っていない言い方で言います。僕はそれがすごいと思っていて、この歌もそうです。
この歌に使われている言葉はすべて誰もが知っている言葉ですし、この感覚は誰もが味わったことのある感覚です。だけどこういう言い方で言った人を僕は知りません。初句の「上等だ」が、めちゃくちゃかっこいいです。
読む人によって、2人が結ばれてるとも、結ばれていないとも解釈できるところも好きです。(岡本)
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岡本さんへ
実はこの2人は結ばれ……、というのは書かないでおきますね。どちらにも解釈できると思っていただけて嬉しいです。
短歌の魅力というのはいろいろありますが、たとえば小説などにくらべると、読者が自由に解釈できる点も大きいと考えています。百人読者がいれば百通りの読み方があるところ。
それゆえに時々、作歌時の意図とはまるで違う伝わり方をしてしまい、戸惑うようなこともあるのですが、そうしたことも含めて楽しみつづけていきたいです。(加藤)
『友だちじゃなくなっていく』(加藤千恵著、ステキブックス、1,474円)より
大学時代に発表した短歌と、それ以降に詠んだ歌、そして書き下ろしで構成された、加藤さんの最新歌集。本人いわく「タイムカプセル」という、甘酸っぱさが詰まった一冊。
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