三十一文字の中に世界を閉じ込める——短歌を味わい、作ってみよう
撮影・幸喜ひかり イラストレーション・浅妻健司 文・一寸木芳枝
岡本さんの著作から、おすすめの一首
「歯磨きのリズムキモいと言われてる同棲3日目の夜のこと」
岡本さんへ
本書の文庫解説(光栄なお仕事でした!)でもちらりと触れましたが、リアル感に圧倒された一首です。
わたしは普段から、他の表現ジャンル同様に、短歌もノンフィクションである必要はまったくないと考えているのですが、この歌に関しては、創作や想像では出てこない、そのリアルさこそが強い魅力を放っていると感じました。宿っている温度に、敗北感すらおぼえました。(加藤)
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加藤さんへ
加藤さんが書いてくれた通り、正真正銘のリアルです。「歯磨きのリズムキモい」という台詞も、同棲3日目ということも、すべてノンフィクションです。
この短歌を褒めてもらえる時は、歌にした僕よりも彼女の台詞のセンスを褒められていると思うので、いつも敗北感をおぼえます。
加藤さんが『全員がサラダバー~』に下さった文庫解説がほんとうによいので、本文はいいので巻末だけでも是非読んでほしいです。(岡本)
『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』(岡本雄矢著、幻冬舎文庫、825円)より
タイトルの歌に象徴されるように、「詠み始めるとなんでも“不幸短歌”になってしまう」とは本人の弁。フリースタイル短歌の魅力に溢れ、読後はポジティブな気持ちになれること必至。
「原付で暴走族の集団に混ざってしまって月がまんまる」
岡本さんへ
岡本さんの短歌は、こちらを「目撃者」にさせるものが多いと感じます。見たことのないはずの風景が、一瞬で目の前にあらわれる。この歌もそうです。
さらにおもしろいのが、原付に乗りながら(乗ったことなんてないのに)まんまるの月を見たような気も、歩道から暴走族の集団に混ざる原付を目撃した気もするところです。
もしも警察官にアリバイ確認かなにかで訊ねられたなら「はい、確かに岡本さんは原付に乗ってました」と証言してしまいそうです。見てないのに!(加藤)
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加藤さんへ
「目撃者」にさせる短歌!めちゃくちゃ素敵なフレーズなので、僕のキャッチフレーズにして、さも自分が言ったかのように使わせていただきたいくらいです。
この歌も正真正銘のノンフィクションなので、見たかのように感じてもらえるのかもしれません。僕の好きな人もこの短歌を好きだと言ってくれたことがあって、更に加藤さんにもおもしろいと言ってもらえたので、あの時暴走族に混ざってしまった自分に花丸をあげたいです。同じ体験は二度と勘弁ですが。(岡本)
『センチメンタルに効くクスリトホホは短歌で成仏させるの』(岡本雄矢著、幻冬舎、1,760円)より
俵万智さんによる推薦文でも話題になった2作目の著書。日常に転がるモヤモヤや些細な理不尽さがほぼ31文字に凝縮され、ふきだしてしまうこと多々。本人による解説も必読。
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