漫画だからこそ心に届く、考える——動物を通じて世界を知る
日本のみならず、世界中の人々を魅了している「漫画」。小さい頃から慣れ親しんでいる読者も多いはず。キャラクターたちが読み手に教えてくれることは多く、心に訴えかける力も大きい。漫画のスペシャリストがうなる作品を紹介します。
青柳美帆子(あおやぎ・みほこ)さん ライター
女性向けカルチャー、マンガやアニメのエンタテインメントを中心に執筆。2024年イチオシは『ありす、宇宙までも』(小学館)。
動物を通じて世界を知る
現実世界では物言わぬ動物だが、漫画の世界では時に饒舌に語り、時に深く考察する。そんな彼らに気付かされることは多い。
後谷戸隆(原作)、我孫子楽人(漫画)『きみの絶滅する前に』
愛とは何か?生きるとは何か?子どもを作らない動物に価値はないのか?といった命題を、ペンギンをはじめとした絶滅前夜の動物を通して描く。
「愛らしくデフォルメされた絶滅危惧種の動物が、生産性によって他者をはかることについて語る、漫画の体裁をとった哲学書のような作品。絵画のように美しいハワイガラスの葬儀シーンからは、“生”を終えてもなお“個”が放つ命の尊厳を感じ、思わず見入ってしまいました」(山脇さん)
鯨庭(漫画)、柳田国男(原作)、石井正己(監修・解説)『遠野物語』( KADOKAWA Masterpiece Comics )
日本人の死生観や自然観が凝縮され、「日本民俗学の出発点になった」とも称される、柳田国男の『遠野物語』に、独自の解釈を大胆に交えてコミカライズ。神や妖怪、動物たちの物語を4編収録。
「鯨庭さんは“実在動物と空想動物専門”の漫画家で、こんなに遠野物語を描くのに適した人がいたのか……、と驚きました。中でも、村の娘が河童の子を産む物語『河童の子』の再解釈と切なさが素晴らしい」(青柳さん)
『クロワッサン』1136号より
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