同居も離職もあわてないで 無理のない遠距離介護の体制づくり
イラストレーション・姫田真武 文・中嶋茉莉花
結婚後は家庭に入る女性がまだ多かった約40年前。現役世代およそ7人で高齢者一人を支えられた時代で、子世代にはまだ家事育児と並行して親の介護をする余裕があった。
それが今や男女問わず仕事を持つように。家庭や仕事との両立を考えると、別居での介護を選ばざるを得ないのが現状だ。
「食事はとれているか、病気や怪我はないかと、遠距離だからこそ家族の心配は募るもの。その結果、多くの人が望まない離職や引っ越し、同居を選んでいるのも現実です。中には親の老いに直面しすぎて、ついに子が心身のバランスを崩したというケースも。自ら手出しをし、犠牲を払って親に尽くす介護が親孝行だと思い込んでいると、いずれは無理が生じる。あとは親子で共倒れです」と川内潤さん。
本来いい介護とは、親の幸せが維持され、親子関係が良好なまま、穏やかな環境下で持続的なものであるべき。
「そう考えると、遠距離介護は互いに自立した生活を守るために必要な選択だと思います。親子間だとケンカになるのに家族以外の言うことは聞く親も多い。潔く地域包括支援センターなどプロの力を借り、子は基本、遠隔でマネジメントに徹するほうがうまくいきます。仕事や趣味を諦めないことは、親不孝でも何でもありません」
目の前にいないからといって、子が自身の不安を解消するために、親の暮らし方を変えさせたり、生きがいや楽しみを奪ったりするのはNG。
「ここでは遠距離介護を円滑に進めるコツを紹介しますが、いつ何時も尊重すべきは親の希望、幸せな暮らしです。そして、介護費用は親自身が支払うことを前提にして。親の長生きを願うなら、子の負担は最小限にとどめましょう」
遠距離介護がうまくいく3つの「しない」
1. 親の行動を制限しない
離れているほど、不安が高じてあれこれやめさせたくなる。でも、本人が不便や不安を感じていない場合、過剰な介護が親の自立の妨げになってしまう。
「親のケガが怖いと、子が介護ヘルパーを雇い、料理や買い物、趣味の庭木の剪定までも代わってもらった結果、認知機能が低下したケースがあります。まずは本人の意向を尋ねるべき。必要に思っていたら、そこで初めて相談に乗りましょう」
2. なんでも自分がやろうと思わない
「公的支援に頼るのは、家族が対処しきれなくなってから」と考えるのは誤り。公的支援に繋がるのが早いほど、親子の負担を軽減できる。
「正しい方法がわからないまま、支える、起き上がらせるといった介助をして、親子どちらかがケガをするアクシデントも多発。『すぐ来て』と言われて遠方から駆けつけたりと、家族ですべてやろうとすると親も子だけを頼るようになり、共依存の関係に陥ることも」
3. 介護に完璧と完全を求めない
高齢の親にとって、昔のように整った部屋に暮らすことや清潔であることが正解ではない。
「『風呂に1週間入っていない、メガネがぬか床から出てきた!』と大騒ぎするのは、家族のほう。本人が混乱しておらず、楽しく暮らせているのであれば、深刻に捉えすぎないようにしましょう。『垢では死なないね。メガネは洗えばまた使えるよね』と適当にやり過ごせる、心の余裕をもちたいですね」
自分の代わりに、親の暮らしを見守ってくれる人と関係を築く
「遠距離介護になる可能性がある場合、近くで親の暮らしを見守ってくれる人を見つけることが、うまくいく秘訣」と川内さん。「真っ先に連絡を取って」と勧めるのが、地域包括支援センターだ。
「どの市区町村にもあり、介護度の軽重にかかわらず、高齢者の相談に乗ってくれる公的機関。無理のない介護方法を探すにあたり、強い味方になってくれます。介護の予兆段階でも、親や家族の現状と、不安を共有してみましょう。次のチェックリストに沿って、親の状況を把握し伝えるとスムーズです。どの時点で誰が何をすべきか、サービスの選択肢など、プロの視点で情報を提供してくれます」
親と付き合いのある隣近所との関係性を築いておくのもポイント。
「親がこれまで関わってきた人に声をかけることが原則。折に触れ連絡を取り合え、親の近況を聞けるようになれると心強いです」
不安解消チェックリスト
病気や認知症の予兆を見逃さず適切な介護を受けるため、「おや?」と思ったらまずは下記をチェック。当てはまらない項目が3つ以上あれば、地域包括支援センターに相談を。
◻︎ 一人でバス・電車・自家用車で出かけているか?
◻︎ 日用品の買い物に出かけているか?
◻︎ 週1回は外出しているか?
◻︎ ここ最近、外出の回数が減っていないか?
◻︎ 友人の家に出かけているか?
◻︎ 家族や友人の相談に乗っているか?
◻︎ 預金の出し入れをしているか?
◻︎ 階段を手すりや壁を伝わらずに登っているか?
◻︎ 椅子に座った状態から何にも掴まらずに立ち上がっているか?
◻︎ 15分ほど続けて歩くことができるか?
◻︎ この1年間で転んだことはないか?
◻︎ 転ぶことに恐怖はないか?
◻︎ この半年間に2〜3kg以上の体重の減少はないか?
◻︎ 硬いものを食べづらそうにしていないか?
◻︎ お茶や汁物でむせることがないか?
◻︎ 同じ話題を繰り返し話さないか?
◻︎ 自分で電話番号をダイヤルして電話をかけているか?
◻︎ 今日が何日か把握できているか?
◻︎ 以前、楽しんでいたことを楽しんでいるか?
◻︎ 以前、楽にやっていたことが億劫になっていないか?
◻︎ 疲れたと、落ち込んでいる様子はないか?
◻︎ 日々の生活を楽しんで送ることができているか?
要介護認定の申請も代行でお願いできる
地域包括支援センターに、介護サービスの利用に必要な介護認定の申請も依頼できる。
「親の要介護認定申請を代行してほしい」と伝えた上で親の現状を共有すると必要書類を役所に提出してくれる。後日、調査員の訪問を受ける際に、立ち会ってもらうことも可能。
親の周囲の人たちに伝えておきたいこと
◻︎ 家族が離れて暮らしていること
◻︎ 自分の状況
◻︎ どれくらいの頻度で帰省できるか
◻︎ 離れていても家族ができること
◻︎ 親族の状況
地域包括支援センター
介護の計画、訪問、見守りなどを無料で支援してくれる。介護認定を受けていなくても参加できる高齢者用イベントもある。
親族・地域の人・地元の友人
親と交流のある親戚や近隣住人に「何かあったら連絡して」と伝え、連絡先を交換する。季節の挨拶なども忘れずに。
『クロワッサン』1134号より
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