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好きなことで独立起業、ずっと“私らしさ”で生きていくーー旅するハンドメイド作家・岩井博子さん

答えはすでに自分の中に。一番好きなことを見つめ直し、第二の人生が始まった岩井博子さんの日々を追いました。

撮影・森山祐子 SUNGJIN CHUNG/jaygraphy(ソウル取材) 文・松本あかね

「手芸と旅好き」が高じて旅するハンドメイド作家に

ハンドメイド作家 岩井博子さん(62歳)
ハンドメイド作家 岩井博子さん(62歳)

8年前、東京郊外で開かれたminne(ミンネ)のハンドメイドマーケットに立ち寄ったことが、岩井博子さんが手芸の世界にリターンするきっかけになった。

「出展している人たちが皆、楽しそうで、私もやってみたいという気持ちがムクムクわいてきたんです」

子どもの頃から手を動かすことが大好き。遊びといえば刺繡や編み物だった。専門的な勉強をしたわけではなかったが、高校卒業後はアパレル会社にデザイナーとして勤め、それからパタンナー、生産管理などの部門で服作りに関わってきた。

しかし、この日わいた創作欲は長く感じていなかったもの。その場に集う作家たちの熱気が、岩井さんの中に眠っていた情熱を揺り動かしたのだろうか。

さっそくハンドメイド品を販売するサイトに登録。1年後には出展者として参加していた。

当初手掛けていたのは、天然石を使ったアクセサリー、麻を編んだカゴと布地を組み合わせたカゴバッグ、ポーチにもなるがま口、それにヘアバンドを少し。これらをブースに並べて、初めてのイベントに挑んだ。

「それまでお客様と直接話す機会はなかったので、声は出ないし、なんて話しかけたらいいかもわからない。そんな状況でしたが、そこそこ売れたんですよね。自分の作ったものが『売れるんだ』とわかった驚きとお客様の『かわいい!』という声を直接聞けたことがすごくうれしかったです」

「皆、死ぬ気でやっていますよ」旅する手芸作家への道のり

それから2年ほどして、岩井さんは勤めていた会社を辞める。

そのとき、次の仕事が決まるまで少し本腰を入れてみようかと、販売サイトのスタッフに相談してみた。「私もこれ一本でやっていけますかね?」「今、一本でやっている作家さんたちは皆、死ぬ気でやっていますよ」

思いがけずシビアな言葉に、どんと背中を押された。

「周りに本当に真剣に取り組んでいる作家さんがいることがリアルに感じられたし、『死ぬ気でやったら』という言葉がいつも頭をリフレインして」

手当たり次第、イベントに参加を申し込み、販売サイトの登録を増やした。

作るものも変わった。カゴバッグはminneのサイトの特集で取り上げられるほど評価も人気も高かったが、ヘアバンドの製作に集中していく。

「作っていて一番テンションが上がるのがヘアバンドだったんです。生地に洗いをかけて風合いを出したり、つけやすいように寸法を調整したり、少しずつでもレベルアップしていけるのが楽しくて。そういうところは職人気質なのかもしれません」

創作と販売に集中するうち、気がつけば再び会社勤めすることなく生計が立てられるようになっていた。ネットショップで販売するほか、月2回は対面のイベントに出展し、一日100本以上を売り上げたことも。

もともと旅好きだから、札幌、名古屋、大阪など地方の催しに積極的に参加するうち、台北でハンドメイドイベントが開催されていることを知り、「これだ!」と思って海外進出。今年8月には韓国・ソウルで開催された4日間のイベントに参加した。

「知らない土地は歩くだけでテンションが上がるし、出会いや食べ物も楽しみ。ソウルには大きな生地市場があるので、そこへも行ってみたかった」

今や旅するハンドメイド作家として国内外を飛び回る岩井さんだが、日々の業務は製作にとどまらず、撮影、注文の受け付けからラッピング、発送、SNSの発信と多岐にわたる。

「苦手なこともあるけれど、この仕事をして一番よかったのは自分で考えて自分でのペースでできること。思いついたことが形になって『いいもの作れちゃった』と思えるときが一番うれしいし、それでもし売り上げがいかなくても自分の責任。その辺が会社員時代と違ってストレスがない。悩んでいても、『あ、自分のせいだな』と思えることが心地いいんです」

いい時も悪い時も舵取りは自分でするのがいい。そのことに気づくことができたのも、56歳のあのとき、背中を押されて走り続けてきたから。

「これからも自分のペースで、長くやっていけたらいいなと思うんです」

リボンとクロスが定番の形でさまざまな生地使いが登場。秋冬はファーも人気だ。1,800〜3,000円。<a href="https://minne.com/@manus">https://minne.com/@manus</a>
リボンとクロスが定番の形でさまざまな生地使いが登場。秋冬はファーも人気だ。1,800〜3,000円。https://minne.com/@manus
好きなことで独立起業、ずっと“私らしさ”で生きていくーー旅するハンドメイド作家・岩井博子さん

「丁寧な縫製と手頃な価格設定に加え、季節に合わせた素材や柄の新作発表を楽しみにしているファンが大勢います。早めの発送を心がけているところやブランドの世界観に合わせたラッピングなど細部まで行き届いた心遣いで、リピーターさんが多いのも納得です!」(minne 池田あずささん)

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