住む場所は自由に決めていい!小川糸さんの車で行き来30分。2つで1軒の、森の中の「家」
撮影・青木和義 構成&文・堀越和幸
車で行き来30分。2つで1軒の、森の中の「家」。
作家
⼩川 ⽷さん(50歳)
長野県は八ヶ岳の南麓に“山小屋”を建てた小川糸さんの暮らしは3年目を迎える。当初は東京の住居と山小屋の二拠点生活を送るつもりだった。が、近年の東京の夏の危険な暑さにうんざりして、もう東京にこだわらなくてもいいやと、今度は静岡県に住まいを移し、この森の中の生活と二拠点生活を試みた。ところがーー。
「山小屋の冬は厳しいと案じていたのですが、実際に住み始めてみると一年のうち11カ月を過ごすことができた」
水と空気がきれいなところに住みたいと考えるようになったのは、この山小屋を建てる前に過ごした、ベルリンでの3年間の生活による影響が大きい。
「自然が美しく緑が豊かで、散歩するだけでも幸せな気持ちになれました。飛行機から見下ろすと、森の中に都市があるような街なんです」
この地なら、ベルリンのように暮らせるかもしれない。そう思ったのが八ヶ岳を選んだ一番の理由。そして、
「離婚をきっかけにベルリンを離れ、東京に戻ることになったのも背中を押してくれました」
時はちょうど世の中にコロナ禍が蔓延し始めたころ。
「そんなこともあって、帰国した時はもうヨレヨレで、小説も次が書けるかわからない、というような状態で……」
けれども、一度建てると決断した小川さんの意思は固かった。それまで、あれほど否定していた車の運転免許を取るべく教習所に通った。
「山の生活には欠かせません。車がないとその先に進めないから必死でした。それまで、都市で車を運転するのはわがままだ、くらいに言っていたのに(笑)」
小川さんは変わろうとしていた。
山小屋ではいろいろな音が聞こえる。まず小川さんがかけるバッハの曲。それから鳥の囀り、風が木々を揺らす音。
「木の実が屋根にコツンとぶつかるのもわかるし、八ヶ岳おろしが吹く時は地鳴りのようなゴーッという轟音がものすごくて生きた心地がしないくらい」
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