住む場所は自由に決めていい!小川糸さんの車で行き来30分。2つで1軒の、森の中の「家」
撮影・青木和義 構成&文・堀越和幸
剥き出しの自然は怖い。
剥き出しの自然は怖い。そして、それと同じくらいに美しい。森に面した窓からは、四季の営みどころか、一日単位で自然の移ろいが感じられる。
「今年の冬は夜中の小雨が木々の枝に氷結する雨氷(うひょう)という現象が見られ、森全体が光り輝く美しさに息を飲みました」
雪に閉ざされると手も足も出ない。
雪が世界中の音という音を飲み込んでしまう圧倒的な静けさ。何日間も人と会いませんし、自分しか生きていないのではという気にもさせられる。孤独をとことん噛みしめるような……」
東京で生活をしているとたとえ嵐が来てもやることはやるぞ、となりがちだが、それは違うと今になって思う。
「自然に抵抗はできませんし、人間は自然にもっと感謝しなければいけない。夜明けと共に起き、日没で一日を終える、太陽の動き方で私は動いています」
森の暮らしの3年目を迎えていろいろな価値観が変わった。地元で穫れた野菜を中心に食べ、カシミヤのセーターも着ることがなくなった。
「ストーブの薪を運んだりするでしょう。そんなことをしているとすぐに服がボロボロになってしまうから。そう、そう、今年の冬は初めてチェーンソーを使って自分で薪を作ったんですよ」
目下、二拠点のもう一方の静岡県はほぼ開店休業状態だ。まもなく引き払って、現在は山のさらに麓に新たに“ノラコヤ”(上写真)を建築している。
「山小屋ではできない農作業や厳寒の季節の逃げ場、“夏の庭、冬の家”という位置付けで建てているところです」
車で30分、標高差900メートル、自然と一緒に暮らす新しい二拠点の形。
「最近、すごくラクになりました」
自然からエネルギーをもらっているので、と小川さんは笑う。
『クロワッサン』1126号より
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