プロレスラーから溢れ出る人間性を見てもらいたい。
撮影・木寺紀雄、MEGUMI
「プロレス」をテーマにした後半は、プロレスファンである作家の西加奈子さんと、女子プロレス界の横綱と呼ばれ、来年春の現役引退を表明している里村明衣子選手の対談。文学とプロレスに様々な共通点が見つかった、初対面とは思えぬ試合(!)の実況をお届けします。まずは観客側/プレイヤーとしてそれぞれ感じる、プロレスの魅力のお話から。
西加奈子さん(以下、西) 世の中にあらゆるエンターテインメントがありますが、プロレスほど自分の人生を投影できるジャンルはないんじゃないか、と思っています。いわゆる「多様性」という言葉が聞かれる前から、テクニシャンもいればパワーファイターもいて、観に行ったら必ず誰かには自分が重なる。作家になってからはさらに、「プロフェッショナルとは何か」を教えていただいています。一番前で輝く人もいれば、一見目立たなくても、この人がいないと成立しないな、という選手もいる。プロとして自分はどうありたいかを考えさせられます。
里村明衣子さん(以下、里村) こんなに的確に言葉にしていただいて、ありがたいしとてもうれしいです。私、小さいころから柔道をやっていたんですが、技は決まっているし、当時は柔道着も全員同じ。強くありたい反面、目立ちたがりだったもので、プロレスに出合った時に、求めているものがすべてある!と思ったんです。技もオリジナルで、衣装もレスラーが着たいものを着ていて、登場時はかっこいい入場曲が流れる。お客さまも、選手から溢れ出る人間性を応援してくれているんだと思います。
里村明衣子はどんな選手?
引退まであと少し。里村選手の出場試合(予定)
⚫︎11月30日(土)
エディオンアリーナ大阪 第2競技場大会(大阪)
⚫︎12月8日(日)
仙台サンプラザホール大会(宮城)
⚫︎2025年4月
後楽園ホール大会(東京)
*すべてセンダイガールズプロレスリングの興行。
今後追加になる可能性あり。最新情報はセンダイガールズプロレスリングHP(https://sendaigirls.jp/)へ。
西 そうですよね、選手がそれぞれ背負う物語を見に来ているんだと思います。この人が誰に憧れ、誰とデビューが一緒で、どんなに負けん気が強いのか……がわかると、ぐっと投影しやすくなる。その反面、初めて観に来た人も魅せないといけないという、とても複雑なことをされていて。中邑真輔(なかむらしんすけ)選手(現在、米国の団体で活躍中)がプロレスのことを「総合芸術」とおっしゃっていましたが、そのとおりだと感じます。
プロレスラーは私たちの感情の代弁者。
里村 師匠の長与千種(ながよちぐさ)さんから教わったもののひとつは、「感情をすべて表に出していい」ことです。柔道をやっていた時は、悔しい顔はしないし、痛くない顔をして受け身を取っていたんです。でもプロレスのリングでは、全ての感情を表現しろと。
西 選手たちが自分の代わりに勝ってくれて、負けてくれて、泣いてくれてというのは、すごく励まされますよね。特に日本で暮らしていると、思った以上に感情を出していないと思うんです。会議で自分の企画が通って「イエーイ!」ってこぶしを突き上げることも、通らなくて地団駄踏んで悔し泣きすることもあまりない(笑)。客席で「普段あんなに叫ぶ人ちゃうやろうな」っていう人が、自分の気持ちを選手に乗せて、「里村いけーー‼」と大絶叫しているのを見たりすると、じんときます。
里村 確かに。選手たちは普段やらないことばかりしますしね。
西 本当に! 上司をどつくとか、社長の首を絞めるとか……(笑)。
里村 私も一応社長なのですが、「テメー里村この野郎!」と、呼び捨てにされた上に蹴られています(笑)。
西 あと私、試合では「負けている選手の顔」を見てしまうんです。プロレスから学んだ大きなことのひとつが、「負けるのが怖くなくなった」ということで。賞もいただいて、素敵な人たちに出会い、本当に恵まれてはいるんですが、人生って8割くらい負けじゃないですか。
里村 お気持ち、よくわかります。
西 勝った選手はもちろん輝いているけれど、勝った選手を見送っている選手もびっくりするくらい美しいことがある。たとえ負けても、全力でボロボロになる美しさを知ったので、自分の書く小説は絶対スカさない、と決めています。あと、プロレスって「相手の技を受ける」という珍しいジャンルの格闘技。もちろん、何度も技をかけ続けるほうも輝いていますが、相手の技を受けて受けて、それでも立ち上がる選手にぐっときてしまいます。技を受けて“その技をかけている相手のすごさ”を見せ、時にヒール(悪役)的なことさえもして、いい試合にする。自分もそういう人間でありたいです。
里村 実は今、社長業をやっていて、試合の時より受ける大切さを感じています。スタッフからあれこれワーッと言われて、納得できなくても「そうか、わかるよ」と受ける(笑)。まだまだ修業が足りません。
広告