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日本美術で香り高い平安文学を読むー国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

平安時代には『源氏物語』を始め、漢詩や和歌、日記など多彩な文学作品が花開いた。その豊かな物語世界は日本美術でも重要なテーマとなっている。この展覧会は平安文学を題材にした絵画や写本などの古典籍を展示するもの。国宝3件、重要文化財5件が含まれる。

日本美術で香り高い平安文学を読むー国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」【青野尚子のアート散歩】
国宝 俵屋宗達「源氏物語関屋澪標図屏風」寛永8年(1631) 静嘉堂文庫美術館蔵
国宝 俵屋宗達「源氏物語関屋澪標図屏風」寛永8年(1631) 静嘉堂文庫美術館蔵

中でも見逃せないのが国宝の俵屋宗達「源氏物語関屋澪(みおつくし)標図屛風」だ。「関屋図」(画像上)は中央の関所の入口を挟んで右に光源氏の、左上に空蝉(うつせみ)の牛車が描かれるのだが、源氏も空蝉も姿は見えない。また「澪標図」(画像下)でも、中央に住吉大社を参詣する光源氏の牛車が、右上に明石の君が乗る舟があるが、二人は描かれない。すれ違う男女の心模様がさまざまに想像される。金・緑・白を大胆に配した構図の妙も見ものだ。

重要文化財「住吉物語絵巻」は少将が京に住む姫君に思いをよせるが、意地悪な継母は姫君ではなく自分の娘と引き合わせるという物語の絵巻。姫君は大阪の住吉に逃れ、少将は長谷観音の夢のお告げで住吉に行き、姫君を見つける。

展覧会ではそのほかに近年発見された、やまと絵の名手·土佐光起による「紫式部図」が初公開される。石山寺で琵琶湖に映る月を見て『源氏物語』を書き始めたという伝承に基づくものだ。国宝「倭漢朗詠抄 太田切」は金銀泥の鳥や草木などの下絵が美しい。平安貴族の美意識が匂い立つ名品がそろう。

1977年生まれの截金ガラス作家、山本茜がライフワークとして取り組む『源氏物語』のうち「空蝉」「橋姫」を作品化したものも特別展示される。
 
『平安文学、いとをかし ―国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」と王朝美のあゆみ』
11月16日(土) ~ 2025年1月13日(月・祝)
●静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2・1・1 明治生命館1階) 
TEL.050・5541・8600(ハローダイヤル)
10時〜17時(土曜〜18時、第3水曜〜20時) 月曜、12月28日〜1月1日休 
入館料一般1,500円ほか
  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1129号より

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