「助けてほしい」と声を上げれば、相談にのってくれる人たちはいる【助け合って。介護のある日常】
撮影・井出勇貴 構成&文・殿井悠子
「 困ったら専門家に頼る、 それが母のそばにいられる秘訣。」内田清子さん
介護に必要なのは“編集力”なのかもーー。長年、介護の現場を見聞きしてきて、そう感じることがある。
「面倒見のいい母だったので、恩返しをしたいんです」
と話す、編集者の内田清子さん。母親の睦子さんに認知症状が出始めたのは2017年頃のこと。やれるだけのことをやれば、その後の後悔やモヤモヤが少ない、と周りの介護経験者に聞いた内田さんは、最近では仕事をセーブして睦子さんの介護を優先する。
「認知症のイロハを教えてくれたのは、父のケアマネジャーだった看護師の大村紀子さん。母をデイサービスに通わせることに今ひとつ前向きになれない弟を施設見学に連れて行き、説得もしてくれました」
昨年、尿路感染症になった睦子さんが入院治療からの後、車椅子生活になった。睦子さんの担当ケアマネは、自宅介護は限界と施設入所を勧めた。だが、茅ヶ崎で通う通所介護施設「生きがい工房茅ヶ崎」は、玄関ではなくベッドまで迎えに来てくれて「いつもどおりで大丈夫ですよ」と、睦子さんを連れ出してくれた。
「『生きがい工房茅ヶ崎』さんは、人としての機能を失わないことがモットー。トレーニングパンツを穿いていても歩いてトイレに行くことを習慣にし、食事もスプーンではなく箸を使うことを大切にする。所長の田沼満代さんは“あきらめないこと”とおっしゃってくださり、おかげで母は車椅子を1週間弱で卒業。認知症がかなり進行した今でも箸を使って食事をするし、一度は衰えたと思う機能が回復することもあります」
今年5月、睦子さんから血尿があった。夜も遅い時間だったことで、困り果て相談した先が、末期がんだった父親の勝人さんを看取ったホームホスピス、シェアハウス「かのん」の代表の髙本征子さんだ。
「このときは、すぐ行ける距離だからと、家まで様子を見に来てくれて大事に至らずにすみました。髙本さんは、困ったことがあったら、いつでも電話くださいね、と言ってくれてとても心強く、ありがたいです。その後、在宅医療の先生も紹介いただき、安心して過ごすことができています」
こんなふうに内田さんの周りに手を差し伸べてくれる専門家の人たちがいるのは、内田さんが都度「助けてほしい」と声を上げてきたから。可能な限り自分の手で介護をしたいという思いがあるからこそ、専門家のネットワークを作っておくと生きてくる。無関心に見える街の中にも、真摯に相談にのってくれる介護施設や専門相談機関は必ずある。
『クロワッサン』1126号より