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「三島喜美代-未来への記憶」練馬区立美術館【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

「割れる印刷物」に込めた情報とゴミの関係。

1932年生まれ、今年で92歳になる三島喜美代。彼女が現代美術家として活動を始めたのは1950年代だった。以来70年にわたってエネルギッシュに制作を続けている。関西を拠点とする彼女の、東京の美術館では初めての個展が開かれる。

三島喜美代《ヴィーナスの変貌Ⅴ》 1967年 個人蔵
三島喜美代《ヴィーナスの変貌Ⅴ》 1967年 個人蔵

代表作「割れる印刷物」は新聞や雑誌などの印刷物を陶に転写したもの。硬く、丈夫に見えて実際はもろくて割れやすい陶に、日々膨大な情報をあふれさせる印刷物を組み合わせて、氾濫する情報に追われ、埋没してしまう恐怖や不安を表現している。

その後、三島の関心は情報からゴミへと移っていく。情報もゴミもつかの間に消費されて不要なものとなってしまう。空き缶や段ボールを陶で再現した作品はそんな問題意識から生まれたものだ。産業廃棄物を高温で処理した溶解スラグを素材とする作品も発表している。

三島喜美代《Paper Bag(シリーズ)》 1973-1980年 兵庫陶芸美術館蔵
三島喜美代《Paper Bag(シリーズ)》 1973-1980年 兵庫陶芸美術館蔵

今回の個展では「割れる印刷物」の作品のほか、初期に手がけていた絵画やコラージュ、シルクスクリーンによる平面作品など、彼女のキャリアを概観できる作品群が並ぶ。中でも1万個もの耐火レンガ・ブロックがびっしりと並ぶ最大規模のインスタレーション作品《20世紀の記憶》は圧巻だ。レンガ・ブロックには三島が20世紀の100年間から抜き出した新聞記事が転写され、タイトルの通り〝20世紀の記憶〞を具現化する。近年、国内外で評価が高い三島の世界が広がる。

三島喜美代《20世紀の記憶(部分)》 1984-2013年 個人蔵 写真撮影:小川重雄 写真提供:美術資料センター株式会社
三島喜美代《20世紀の記憶(部分)》 1984-2013年 個人蔵 写真撮影:小川重雄 写真提供:美術資料センター株式会社

1984年から制作が始まった《20世紀の記憶》は東京臨海地域の「ART FACTORY城南島」に常設展示されており、今回は初めてそこ以外の場所で展示される機会になる。フルスケールで展開される情報と物質の存在感に圧倒される。

「三島喜美代―未来への記憶」
5月19日(日)〜7月7日(日)
●練馬区立美術館
(東京都練馬区貫井1・36・16) 
TEL.03・3415・6011 
10時~18時 月曜休
入場料一般1,000円ほか

  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1117号より

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