くらし

「〝自分らしさ〟とは何かを考え続ける」、由紀さおりさんの哲学とは。

歌謡曲、童謡、ジャズ……。
唯一無二の声で歌い上げ、女優としても大きな存在感を示す。
そんな由紀さおりさんの哲学とは。
  • 撮影・枦木 功(nomadica) ヘア・馬場利弘(竹邑事務所) メイク・徳田郁子 着付け・吉村恵巳(松竹衣裳) 文・板倉みきこ

〝自分らしさ〟とは何なのか。考え続けることが原動力になる。

限られた時間、日々生ききる。そうありたいと過ごしています。

ある夏の日、雪輪文様の着物をたおやかに涼しげに着こなす、歌手の由紀さおりさん。来年で芸歴55周年、これまで芸の世界の一線を走り続けてきた。

「でもね、順風満帆ってわけではないんですよ。結婚は2度失敗していますし、歌い手としての厳しい挫折もたっぷり味わいましたから……」

30代後半には多忙ななかでの5年の闘病後、子宮全摘出という大きな決断をして、底知れぬ喪失感も経験した。

「思いどおりにいかないことがあっても、迷った日々が大切なのだと思います。自分の“現実”を知る、そして認める。その上で私はどう生きていくのが私らしいのか。自問自答し続けた結果に“今”がある、そんな気がしますね」

由紀さんらしい生き方の柱には、児童合唱団から歌い続けている童謡がある。

「日本の暮らしの中で生まれた歌だから、時代は変わっても日本人の心に響きます。暮らしの句読点としての歳時の歌、行儀、小動物に対する目線、家族の愛……。歌が思い出と繋がり、心を豊かにしてくれる。私にできることはこれだ、と、数年前から“童謡で伝える会”を幼稚園、保育園で開いています」

童謡を歌うだけでなく、園児の母親たちの人生相談の場になることも。

「『子どもを3人育てているのに、誰も褒めてくれない』って方がいらして『私が言うのもなんだけど、褒めてあげるわよ。本当によくやってるわ』とお伝えしたら、ポロポロって涙を流されました。最近は忙しい方が多いから、余裕がなくて思うようにいかないでしょうけど『夫や親、義理の親など、誰かに甘えられるところは甘え、感謝を忘れずにいてね』ともお話ししています」

時間は有限で、日によって条件が異なるのが世の常。由紀さんは、与えられた場で最善を尽くしたいと日々臨む。

「瀬戸内寂聴さんがおっしゃっていた“生ききる”という言葉が大好きです。24時間、1秒たりとも無駄にしない覚悟を感じます。私より若い世代にもお伝えしたいのは、この先どれくらい生きられるか、誰も分からないということ。だからこそ、今生きているこの時間をどう充実させて生きていくか、それを考えましょう、とね」

由紀さんが発する瑞々しいエネルギーには、優しさの裏に強い覚悟がある。

「いつも新しいことにチャレンジしたいと思っています。挑戦する気持ちが私を勇気づけ、元気づけてくれますから」

結婚して芸能界を引退しようと思ったこともあったが、歌の道を選んだ自分に、今は後悔はない。

「『自分で選んでこそ、自分で決めてこそ自分の人生』とおっしゃった先輩の言葉が心に残っています。これまで私もそのように生きてきましたし、自分で決めなければ悔いが残りますよね」

決めたことは、努力して達成させる。今の目標は80歳までは現役で、稽古中の三味線の弾き唄いを披露すること。

「この声を大事にしながら、緊張感を維持できる頭と体でいたいですね。もちろん、若い頃と違っていろいろ厳しい面もありますけど、そこもチャーミングに見せたいなと思っています」

由紀さおり

由紀さおり さん (ゆき・さおり)

歌手

女優や司会業などでも活躍。BS-TBSで放送中の『名曲をあなたに うた恋! 音楽会』のMCを担当し、歌唱も披露。

『クロワッサン』1099号より

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