財産チェックリストで親のお金を把握しよう。
突然の入院や施設入居という事態になったとき慌てずにすむように、やっておくべきことを整理してみよう。
イラストレーション・村上テツヤ 文・生島典子
親のお金、家族がわかっていないと何が困る!?
「親のお金について知らないままでいちばん困るのは、認知症になったときですね」と、ファイナンシャルプランナーの山田静江さんは語る。認知症になったら、銀行の口座や印鑑について聞いても正確な答えが返ってこないかもしれないし、家族が代わりに預金を引き出すことも不動産の売買も困難になる。
「お金があっても使えない状態になるということは知っておいたほうがいいでしょう」
それ以前にも、病気やケガで入院したり、介護が必要になって施設に入ることになったら、どこの口座から入院費を出すのか、施設入居にあたり、いくらくらい払えるのかは、親の資産状況をある程度知っておかないと判断できない。
そして、「何の情報もないまま親が亡くなったら、相続の手続きをする際にもたいへんです。元気なうちに聞いておきましょう」。
まずは、今ある財産をチェックしよう。
親に聞いて把握しておきたいことは、下のチェックリストのようなこと。
銀行・証券会社の口座がどの金融機関にあるのか、どんな生命保険に入っているのか、所有している不動産の情報など、多岐にわたる。
「親に、『ちゃんと書いておいてよ』といくら言っても、なかなか書いてくれませんから、その場で親に聞いて、こちらがメモをしておくのがいいでしょう。金額や残高まで聞きたいところですが、まず入り口は、金融機関名や口座名にとどめておきます。そのほうが親は言いやすいと思います。そこから先は、親のお金の管理を手伝っていく中で少しずつ解明していければいいのです」
家族が、勝手に親の口座からお金を引き出すことは、認知症になる前でも認められていない。
「お金はトラブルの元になりますから、家族が引き出したらそれを親のどの支払いに使ったのかをメモしておきましょう。支払い額ぴったりの金額をおろすようにすると、家族間の余計なトラブルを防ぐことができます」
ネット銀行やネット証券で取引している人も増えている。通帳など目に見える取引の記録がないため、これから人口の多い団塊の世代が超高齢になると、ますます取引口座が見つけにくくなることが予測される。
山田さんは、「家族が案外把握していないのが、年金の受取口座と生活費の支払口座です。年金の受取額などは聞かずに、どの口座を使っているかを聞いておくことが大事です」とアドバイスする。
【親の財産チェックリスト】
□ 銀行の預貯金
どの銀行に口座があるのか、通帳、印鑑、キャッシュカードの保管場所、暗証番号も聞いておきたい。
□ 株などの有価証券
株や債券などを持っている場合は、口座がある証券会社名と支店名、有価証券の種類を聞く。
□ 互助会などの積立金
互助会に加入していれば、葬儀はそこで行う前提で考える。解約してもお金はあまり戻ってこない。
□ 生命保険
加入している生命保険や共済の会社名、商品名と、どんなときに保険金が出るのかを確認しておく。
□ 土地・建物
所有している土地・建物について聞いておく。名義変更されていない不動産もあるので要注意。
□ その他の資産
絵画や宝石、貴金属など、資産として価値があるものを所有していないかと、その保管場所を聞く。
□ 借金・ローン
金融機関や知人などに借りているお金がないか、あればその金額と返済計画を聞く。
□ 貸付金
人に貸しているお金がないか、あればその金額と、相手から返済してもらうめどを聞く。
□ 年金(受取口座の情報)
親が年金を定期的に受け取っている口座が、どの金融機関の口座なのかを聞いておく。
□ 生活費などの支払口座の情報
現在の生活費(光熱費や通信費など)の引き落とし口座が、どの金融機関の口座なのかを聞いておく。
親が認知症になる前に、考えてみたい任意後見制度。
親が認知症になったときに、銀行口座からお金をおろしたり、いざというときは自宅を売りたいという場合は、認知症になる前に親と子どもで「任意後見契約」を結んでおくとよいだろう。
「親は財産を全部取られると勘違いするので、認知症になったときに財産を動かすための手続きだと説明を」
金融機関によっては、「代理人制度」を導入しているところがある。事前に申し込んでおくと、認知症になる前でも本人が病気や施設入居などで窓口に来られないときは、代理人がお金を引き出すことができる。
もし、本人の口座からお金が引き出せない場合は、誰かが立て替えておかなければならない。立て替えた記録は必ず残しておいて、親に請求しよう。「もし、そのまま亡くなってしまったら、立て替えた分は相続のときにしっかり主張しましょう」
【任意後見制度】
本人の判断能力があるうちに、自分自身で任意後見人となる人やその人に委任する事務内容を決め契約しておく制度。この契約は、公証人が作成する公正証書により締結する必要がある。本人の判断能力が不充分になったあとに、家庭裁判所に申し立て、任意後見監督人が選出されたら任意後見人契約が発効する。
【金融機関の代理人制度】
預金者本人が事前に申し込みをしておき、自分が窓口やATMに来店できなくなったときに、代理人が手続きできる制度。代理人になれる条件は金融機関による。指名された代理人は、通帳・届出印・代理人の本人確認書類を持参して、窓口で出金等の手続きができる。認知症などに備える方法として有効。
\覚えておきたい!/ 相続の法律が変わりました。
相続登記されていない所有者がわからない土地が多いことで、公共事業や災害の復興がスムーズに進まないことが問題になっている。そこで、2023年4月から「相続土地国庫帰属制度」がスタートした。
「更地にしなくてはならないし、崖地はダメ、10年分の土地管理費相当額の負担金を払うなどの条件はありますが、個人所有の土地を国が引き取ってくれるようになったのは大きな変化です」
2024年4月からは、これまで任意とされていた相続登記が義務化され、相続によって不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならなくなる。
また、2023年4月から、遺産分割でもめ続けている場合、相続開始から10年経ったら法定相続分で分割できるようになった。さらに、「相続人の中の1人と連絡が取れない場合などに、その人の持ち分の金銭を供託することで、不動産を売却できる改正も行われました」(山田さん)。
『クロワッサン』1096号より