くらし

老後資金は足りる? 今こそ本気で見直したいお金との付き合い方。

相次ぐ光熱費の値上げや物価高、長引く円安……。聞こえてくる経済ニュースに明るい材料がない今だから、
きちんと見直したいのがお金との付き合い方。
お金の不安を少しでも軽くする一手を共に考えましょう。
  • 撮影・青木和義 イラストレーション・浅妻健治 構成&文・中條裕子

今こそ本気で見直したい、よりよいお金との付き合い方とは?

左・横山光昭さん(家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー)右・原田ひ香さん(小説家)

原田ひ香さん(以下、原田) 今、20〜30代はどんどん投資していいんじゃない?という流れだし、60〜70代だとそれより生活を整えていったほうがいいとなる。でも、子どもが手を離れ、老後も視野に入る50代はどっちつかず。投資を急に始めるのも、という気もするし。その辺りはどうでしょうか?

横山光昭さん(以下、横山) 50代でも毎月家計がプラスで、預貯金も生活費の1年分くらいある状況ならば、始めてもよいのでは。FXや暗号資産のようなものではなく、iDeCoやNISAを使って投資信託を積み立てていく長期・分散を前提にした投資はいいと思います。

原田 運用できる期間が何年以上あればやったほうがいいとかありますか?

横山 本当は20年、最低10年は欲しいかな、と。早くから長くやってほしいというのはあります。

原田 一方で、そこまで老後を怖がらなくてもいいのかなとも思うことも。2000万円問題もありましたが、世の中でそれを言い過ぎてるのでは、と。

横山 あれは一つの例であって自分の例を考えないとね、と当時もお伝えしていたんです。月々の生活費としてかかる金額から年金支給額を引いて、足りない分に30年かけてという話なんですよね、ざっくり言えば。でもモデルケースの基準になっている月々の生活費のおよそ26万5000円って誰の基準?一般的ってなんだ?となる。

今からでも遅くない!つみたてNISAなどを使ったリスクを抑えての投資は一刻も早く始めて、長い期間かけるのが鉄則。

原田 住んでいる場所や、自宅が賃貸か持ち家かでも変わってきますよね。

横山 実際に、病気やリフォーム、介護ということもあるから、プラスでかかってくる面はあると思う。急にはできないから、ゆっくり準備しておかないといけないという感じですよね。

原田 やっぱり準備は必要ですか?

横山 働けるときは働くようにして年金受給開始までの間に、自分で作ってきたもので繋ぐ用意をすることが今は必要になってきますよね。

原田 私もインタビューで「とにかく不安。どうしたら?」とよく聞かれます。そんなときは、老後どういう生活をしたいか、どんな趣味を持ち毎日どう過ごしたいかを考え、そのため月々いくらかかるか考えてはっきりさせるのが一番いいのではとお話ししています。

横山 そこがわからないまま「いくらかかるのかしら?」と、ずっと不安に思っていると解決にならない。

原田 具体的に、はっきりする、ということが大切ですよね。

横山 2000万円というのは差額5万5000円で計算(下モデルケース参照)していますが、今のままで生活していけば5000万円必要という人もいれば、1000万円で充分という人もいる。
差額分がどれだけあるのかと年数で見ないといけない。収入が低くてもやりようによっては問題ないということ。5万5000円の差額というのも、たとえば節約を2万円くらいにして3万円くらい働けばいい、といった対処の仕方も見えてくる。

【老後資金の不足分を試算したモデルケース】

●老後資金の不足分を試算したモデルケース

[標準的な生活費(1カ月)26万3718円]ー[公的年金を含めた収入 20万9198円]=[差額分約5万5000円]×[12カ月]×[30年]=[生涯不足額 約2000万円]

●差額分への対処法例

[節約 5万5000円]or[節約 2万5000円]+[労働 3万円]

金融庁が2019年に試算し話題となった、生涯で必要となる老後資金の不足分の内訳がこちら。

夫65歳以上、妻60歳の夫婦のみの無職世帯で毎月約5万5000円の不足が生じるため、30年で不足分が2000万円に上るという試算。ただ、個人により状況が異なるので、生活費の設定や差額分をどう解消するかを、自身で把握して対処することが不安解消につながる。

 お金はどう使うかが、 結局は一番大事な問題。

自分の生活費を把握することが第一歩。 趣味や理想の暮らしにいくらかかるか明確にする。

原田 節約を徹底するというより、自分は月に10万、8万で生活できると決め、それに合わせて仕事をしていくという人もいます。たとえば、一軒家暮らしなら月5万の年金で生活できるという考え方ができれば、あんまり不安はなくなるんだろうな、と。

横山 ちょっとダウンサイジングして、という形ですね。ただ、お金を大事に使っていくという感覚は、少しずつ考えながらやっていかないと急には養えない。こだわって、大事にお金を使うことができるかどうか。収入が大きくなくても「これくらいで私は足りる」ということができる人は、やはり強い。

原田 欲しいもの全部は、買えないですからね。

横山 原田さんの『三千円の使いかた』を読んで「お金は本当に使い方だな」と。三千円は1日100円という意味の設定ですよね? 100円であっても1年間で使った、使わないで3万6000円くらい差が出てくる。500円だったら18万円。実際に100円、500円であれ、考えて使うということをしないと大きい差が出てくる。

「お金を大事に使う」感覚を、年金生活に入る前に習得する。

原田 お金は「どう使うか?」ですね。

横山 手段と目的が一緒になってしまっている人が案外多い。お金を貯めるのが目的になってしまう。本来お金は何かをするための道具だと思うんです。そこが抜け落ちてて「ただ不安だから将来のためにお金を貯めないと」というのは、貯まって楽しいとかモチベーションが維持される場合もあるとは思うけど、大事なのはそこなのかな?と思ったりもします。それで気持ちが疲れてしまっている場合もあるので。

原田 貯蓄が2000万円あっても1億でも、不安という意味ではそんなに変わらないのでは。自分を律することができるのかが大きいのかなと思います。

横山 お金を使うことが悪になってしまっている人もいますよね。たまにお金を使うとそのパワーを知ってまた貯める力になるかもしれない。老後これからのお金と、今の楽しみ方のバランスは難しいですけど、そこら辺は体験しながら身につけていく、ですね。

原田 お金の使い方といえば、私が専業主婦を始めたばかりの頃、夫からキャッシュカードを預かってお金がなくなったら出金する、を繰り返してたんです。数カ月経って「これはよくない……」と思って。決まった金額を決めて、残ったら私が貯金してもいいことにしてほしいと言ったのが30代初め。それが今も続いています。

横山 月々かかるお金をきちんと把握することは大切ですよね。

足りなくなったら2、3万円下ろすの繰り返し、ではなく事前に予算を決めてからお金を使う。

原田 お金のことを相談されたときは、なんとなくお金がなくなったら2、3万おろして使う、みたいなことはまずやめてと言います。使う予算を決める、最初に貯金をしておくなどして、あとの管理は家計簿でもなんでもいいのでは、と。それって、まさに50代に合った方法かな、と思うんですよね。

横山 具体的な自分のお金の出入りを、知らないまま不安がってるのがよくないかなと思います。

原田 気持ちはわからないでもない。本当に直視したくない、という人もいるでしょうね。歯が悪くなってるのに歯医者さんに行けないのと同じで。

横山 ダイエットではないけれど、まず体重計に乗るところから始めないと。私のところに相談に来る人にも、ざっとでいいから紙に現在の収入、住居費から生命保険料、食費などを書いてきてくださいと、下準備をしてもらう。その時点で「こういう状態だからダメなんですね」となることも。

原田 レシートをノートに貼るだけでも違いますよね。

横山 自分はこことここ使うなと、たとえば美容費と交際費など、使いすぎてしまうところだけでもいいと思います。

原田 お金を知ることは、自分を知ること。ぜひ50代から、自分を見つめることを始めたいですね。

● お金用語解説 ●

●FX
外国為替証拠金取引。ある国の通貨を別の国の通貨に交換することで、為替レートの変動により利益を得られるなどのメリットが生じる。少ない資金で大きな利益を狙えるが、相場の急変動で大損失を出す恐れも。

●暗号資産
仮想通貨とも呼ばれ、ビットコインをはじめとする新しい電子マネーの総称。少額から投資でき、市場として将来性の高さから注目されるが、銘柄による価格変動が大きく、ハッキングにより不正送金される可能性も。

●iDeCo
公的年金とは別に給付を受けられる私的年金制度のひとつ。加入者が積み立てで掛け金を拠出。自分で選んだ商品で運用を行い、原則60歳以降に運用で得た利益分を含めた資産を年金や一時金として受け取れる。

●NISA
少額からの投資を行いたい初心者をサポートするための、税制優遇制度。NISA口座で株式や投信、投資をして得られた運用益に税金がかからない。2024年からスタートする新NISA制度など詳細は確認を。

●投資
利益獲得を見込み、事業や不動産、金融商品にお金を出すこと。長期間保有することで安定的に利益を出せる可能性が高くなるが、元本が減るリスクも。金融商品には株式投資、投資信託、国債など種類もさまざま。

横山光昭

横山光昭 さん (よこやま・みつあき)

家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー

これまでの相談件数は2万6000件以上。『年収200万円からの貯金生活宣言』『はじめての人のための3000円投資生活』など著書多数。

原田ひ香

原田ひ香 さん (はらだ・ひか)

小説家

ドラマ化された『三千円の使いかた』をはじめ、豊富なお金の知識に基づいた著書が評判に。『一橋桐子(76)の犯罪日記』『財布は踊る』など著書多数。

『クロワッサン』1096号より

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