【演目:百年目】これぞまさに理想のボス!?ビジネス書的な感動も味わえる噺。│ 柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
【演目】百年目
あらすじ
ある大店(おおだな)の番頭、有能で仕事ができるだけでなく、奉公人たちの一挙手一投足にまで目を光らせて仏頂面で小言ばかり。ところが店には損をさせずに才覚で蓄財して豪遊する、粋な遊び人という裏の顔があった。
春になり大勢の芸者・幇間(ほうかん)を引き連れて向島へ花見に。始めは知った人に見られることを警戒していたが、酔いが回ると派手に鬼ごっこ。足がもつれてぶつかった人が、何とたまたま花見に来ていたお店の主人だった。
大慌てで店へ戻ったものの、暇を出されるだろうと生きた心地がしない番頭、翌日になり旦那に呼ばれ、クビを覚悟で部屋へ行くと…。
人間は誰でも表と裏の顔を持ち合わせていると思いますが、この噺の番頭さんほどギャップの大きい人はなかなかいません。
それがバレてしまったときの狼狽ぶりは気の毒を通り越して滑稽なのですが、それをすべて飲み込んだうえで受け止めることのできる器の大きなご主人は、現代でもまさに理想の上司・社長像でしょう。
このネタで『人を育てる』ということについて考えさせられるお客さまも多いようで、ある師匠の『百年目』を聞いていたく感動し、党派を超えて落語を楽しむ国会議員の集まりを作ってしまった先生までいるそうです。
とはいえあくまで落語なので、あんまり感動にばかり比重を置かず適度に笑っていただきながら演じて、肩の凝らない落語日和をご提供できたらいいなと思います。
『クロワッサン』1092号より
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