唐突ですが、今年の三月で落語家になって丸三十年たちます。月並みな感想ですけど、あっという間ですね。
で、三十年前に初めて覚えた落語がこの『道灌』。われわれ柳家の一門は手ほどきとして大抵この噺を最初に教わります。
といっても私は師匠の故・柳家小三治からは一度も稽古をつけてもらったことがなく、『道灌』もアニ弟子が教えてくれました。
登場人物がご隠居、八五郎とその友達の三人だけで、同じタイプのネタでは『子ほめ』など、他に笑いどころの多い噺もあるので、前座修行が終わり二ツ目になるとこの噺を高座で演じる機会がほとんどなくなってしまう落語家も多いようです。
けれども『道灌』でお客さまに喜んでいただけるようになったら、人情噺の大ネタで喝采をもらうのにも勝る落語日和だと、大事に手塩にかける噺家もまた少なからずいて、何だか嬉しい気持ちになります。