『老いてきたけど、まぁ〜いっか。』、野沢直子さんが言葉で心を整え、見つけたポジティブマインド。
言葉の力を借りて前向きになれた実体験と、今の心境を語ってくれた。
撮影・中島慶子(書影)、榊 智朗(野沢直子さん) 文・黒澤 彩
“言葉には気持ちをリセットする力があると思うんです。”
ふとスタジオにあるモニターを見て「あれ、フナがいる」と思ったら自分の顔だった。――思わず吹き出してしまいそうなエピソードだが、このとき野沢直子さんは愕然としたという。“老い”を目の当たりにした瞬間だった。
「55歳ごろからかな。見た目だけじゃなくて感性も鈍っているのが否めませんでした。だって、テレビに出ている若い人の見分けがつかないんですよ。そんな自分にがっかりして、コロナ禍もあって相当落ち込んでいました」
アメリカと日本を行き来しながら芸能活動を続け、3人の子どもを育てた野沢さん。いつも底抜けに明るいイメージの野沢さんでも落ち込んでしまうほど、老いていく自分と向き合うことは容易ではない。
「よく女優さんとかが『年を取るのが楽しみで仕方ない』なんて言うけど、ウソつけ!ってツッコミたくなります。楽しみにしなきゃいけないのかと、みんながプレッシャーを感じているんじゃないでしょうか。本当は、誰だって年を取るのは怖いし、こんなはずじゃなかったと愕然とするのが普通だと思います」
それでもこの先の人生は長いのだから、なんとかして元気を出そうと書き始めたのが、新著の『老いてきたけど、まぁ〜いっか。』。還暦を前にした気持ちの揺らぎと、前を向くために考えたことが、とても率直な言葉で綴られている。テーマは“年相応”への違和感から、手放してもいい人間関係、介護、子離れの寂しさまで。モヤモヤが晴れるようなポジティブな名言で、読む人を勇気づけてくれる。
「もともと書くことが好き。書くことで考えや気持ちを整理できます。言葉の力ってすごく強くて、人に届けるだけじゃなく、自分で書いた言葉で自分を励ますこともできるんですよね。これからどうしたいんだろう? と問いかけながら書くことは、私自身のセラピーでもありました」
老いていく自分も好きでいたいという気持ちが芽生えたのは大きな変化。言葉によって心のありようが変わるにつれ、不安だったこの先の見通しも、なんとなく良好になってきた。
「好きな服を着て、好きな人とだけ会って、やりたいことだけをしてもいいと思えるようになりました。これからは、自分を喜ばせるために生きていきたいと思っています」
『老いてきたけど、まぁ〜いっか。』
『クロワッサン』1084号より
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