くらし

ADHDの収納アドバイザーによる「無理なく片づけるための6つの工夫」。

ADHDであることを公にしながら整理収納アドバイザーとして活躍する西原三葉さん。片付けが苦手な人でも取り組める、片付けの工夫を聞きました。
  • 撮影・青木和義 文・嶌 陽子 イラストレーション・松栄舞子 構成・堀越和幸

ADHDタイプの主な特性

【不注意】
●部屋の片づけができない
●忘れ物や落とし物が多い
●課題を最後までやりきれない
●並行していくつものことができない
●うっかりミスが多い

【多動性】
●自分のことばかりをしゃべる
●落ち着きがない
●気持ちが先走る
●体の一部を動かす

【衝動性】
●突発的に相手を傷つけることを言ってしまう
●内緒の話を、次の瞬間、ほかの人に言ってしまう
●思いついたことをすぐに言動に移す
●衝動買いをする
●自己抑制が苦手

(「ADHDタイプの片付け講座」西原三葉さんの講座資料より抜粋)

音声タイマーを使って集中力をキープ。

ADHDタイプの人は集中力が続かない。片づけようとしても目についたものにすぐに気を取られ、ほかのことをしてしまいがち。これを防ぐには、スマートフォンの音声タイマーが役に立つ。

「気がそれてほかのことを始めたとしても、1分ごとに音声で残り時間を知らせてくれるので気づくことができます」(西原さん)

西原さんはこの音声タイマーを使って毎日、起床後の15分間だけ片づけをする〝朝の15分リセット〟を続けている。

「家じゅうにフロアモップをかけながら、床に落ちているものを拾ったり、テーブルの上の書類やコップなどを元の位置に戻します」

5分でも15分でも、必ず決めた時間で切り上げるのもコツ。一気に大掛かりなことをしようとしても挫折しがちなので、小さな一歩を積み上げていくことが大切だ。

西原さんが愛用するのはiPhoneアプリの「こえタイマー」。Androidアプリには「Timeeeeer」がある。

「スイッチワード」を使って最初の一歩を踏み出す。

片づけなければ、と思っても、苦手なことは先送りにしてしまうのがADHDタイプの特性。つい「面倒だな」「あとでやろう」という気持ちが湧き上がってしまう。そんな時は「スイッチワード」を口に出して動くのがおすすめだ。

「私の場合、『とにかく動く!』

『いつやるの? 今でしょ!』などがスイッチワード。今でも一日に何度も面倒だなと思いますが、そんな時はスイッチワードを口にして、座っていたら腕を振って立ち上がるようにしています。自転車は漕ぎ始めの時はペダルがとても重く感じますが、いざ漕ぎ出してしまえば軽くなりますよね。片づけも動き始めはエネルギーを使いますが、最初の一歩を踏み出せると案外動けるものです」

自分のやる気を起こすようなスイッチワードを決めておき、「面倒だな」と思った時は口に出して行動を起こすようにしてみよう。

座っている場合は、スイッチワードを口にしながら立ち上がってしまうのがおすすめ。「えいやっ!」と動いてみよう。

頑張る気持ちを刺激する自分へのごほうびを用意。

「片づけはできて当たり前と思われがちで、できたからといって誰かに褒めてもらえることはほとんどありません。加えてADHDタイプの人は自尊心が低く、自分で自分の頑張りを認められないことがとても多いんです」

一方、このタイプの人は、刺激がないと頑張る気力が湧きにくいのも事実。そこで片づけられたら自分を褒めたりごほうびを設定したりすると、片づけを継続するための後押しになる。

「私は以前、おいしいお茶をたくさん買ってきて、床とテーブルの上をきれいにできたら飲む、と決めていました。頑張った自分を認めることで、次も頑張ろうという気力も湧いてきます」

もちろん、家族や友人に褒めてもらうのも有効。身近に褒めてくれる人がいない場合、目標に向かって仲間と励まし合えるスマホアプリの「みんチャレ」がおすすめ。

おいしいお菓子やお茶など、ささやかなごほうびを用意しておくと、次も頑張ろうというモチベーションが湧きやすくなる。

「吊るす」「放り込む」でなるべく動作を少なく。

面倒なことはなかなか続かないため、楽な仕組みを作ることも片づけを継続するコツの一つ。ものを出し入れする際のアクション数は少なければ少ないほどよい。

「私は洗濯物をたたんでしまうのが大の苦手で、しょっちゅう洗濯物がソファの上に山積みになっていました。そこで、ブラウスやカットソーはハンガーで干して、ハンガーのまま吊るしてしまうように。下着や靴下はピンチハンガーから外したら、たたまずにすぐそばの引き出しに放り込むだけです」

さらに服の収納場所も洗濯物を干すベランダのすぐ近くのクローゼットにすることで、ソファへの置きっ放しがぐっと減った。

「どんな収納法が合っているかは人によって違います。自分にとってストレスのない収納を検討することがうまくいく秘訣です」

ベランダから取り込んだ洗濯物を、ハンガーのまますぐそばのクローゼットへ。下着はその横の引き出しに。

無理に捨てなくてもいい。まずは基本の「仲間分け」を。

ものを減らしたほうが部屋は片づくが、無理して捨てようとするとつらくて片づけ自体が進まなくなってしまう。まずやるべきことは片づけの基本である仲間分けだ。

「ADHDタイプの人は、たくさんのものを目の前にすると、情報量が多すぎて何をしたらよいのか分からなくなってしまいがちです。まずは同じようなもの、似たようなものをまとめることから始めましょう。その作業をする中で、同じものがいくつもあった場合、古いものや汚れたものなど減らしてもいいと思えるものがあれば、処分していけばいいのです」

仲間分けをすることでものの総量が把握できると、ものが手放しやすくなる。使わないけれど手放せないものも、使うものと別にするだけで生活しやすくなるはず。

まずはよく使うテーブルの周辺、などと場所を決めて仲間分けをしてみよう。

困ったら一人で悩まず、人に助けを求めるのも手。

さまざまな工夫を取り入れてもなお、ADHDタイプの人が一人で片づけを進めるのはとても難しいことだ。

「もしも一人で解決できない時は、家事代行業者やヘルパーに依頼したり、家族や友人にサポートしてもらうことがとても大切です。『こんなに散らかった家を人に見せられない』と抵抗を感じるかもしれませんが、助けを求めるのは決して悪いことではないのです」

ただし、依頼する人にはADHDタイプの特性に配慮したサポート法を理解してもらう必要がある。

「理解がないと、責められたり価値観を押し付けられたりする場合も。事前にきちんと事情を説明したり、家事代行業者の中にはスタッフのプロフィールを見て選べるところもあるので、自分に合いそうな人や優しそうな人を選ぶといいでしょう」

家族や友人、専門家の助けを借りることは決して悪いことや恥ずかしいことではない。困ったらぜひ声を上げてみよう。
西原三葉

西原三葉 さん (にしはら・みわ)

整理収納アドバイザー

片付けコンサルティングAUBE代表。著書に『「片づけられない……」をあきらめない!』(主婦と生活社)がある。

『クロワッサン』1075号より

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