還暦を過ぎて夫婦で古民家に引っ越し。使うものしか持たない主義で極めた、モノとの別れ方、潔い暮らし方。
撮影・柳原久子 文・室田元美
[書斎]土間の隅に机ひとつ。 簡便でも快適なワーキングスペース。
暮らしのエッセイや味わい深い文章を生み出す山本さんの仕事場は?といえば、なんと土間の奥まったところに机を置いただけのつつましやかなスペース。
2面に窓があるため、明るさも風通しも申し分なく、なおかつ閉じられた書斎にはない開放感がある。
「ほぼ一日、憧れだった土間で生活しています。この書斎とリビング、キッチンを行ったり来たり」
足元は、真冬以外はお気に入りのわらじ。これがまた土間に似合う。
[本棚]なくても事足りる。思い切って手放し、10分の1に。
引っ越しの際に、もっとも多く手放したのが本だった。
「本棚には、なぜこの本持っているのかな、と思うものもありました。とにかく読みたくなったらまた買えばいいと割り切って、武蔵野市の障がいがある方々が働いている古書店に寄付しました」
現在残っているのは、きっともう手に入らない本、児童書、一緒にいたい本。
「改めて何が自分にとって大事なのかがわかりましたね」
[食器]器は青と白で。 好きなものを決めて無駄に買い足さない。
10年ちょっと前、50歳の頃に和食器を中心に、青と白、木製で揃えることにした山本さん。以後、余分な買い物で後悔することもなくなったという。それでも引っ越しにあたって、食器の3分の2は娘たちに譲ったりして手放した。
「実はこの家の蔵からも、素敵な染め付けが出てきまして。いくつかは新しく仲間に加えました」
[奥の間]思いのままに使えるようものを動かせる空間。
床の間があり、かつては仏間としても使われていた静謐な8畳間。人が集い、自由に使えるように座卓と座布団だけが置かれている。
[タンスの中身]肌着類は、すぐに取り出せるよう、 アイテムごとに袋へ。
娘3人と同居していたときには4人で肌着も共有。当時も置き場所を1カ所に決めて、それぞれが必要なものを取り出していた。
「引き出しの中を引っ掻き回して探さなくてもすむように、いまは肌着をペチコート、キャミソールなど種類ごとに分けて袋に入れ、一目瞭然に。取り出しやすいよう袋も立てて収納しています」
忙しい朝や出かける前に、ぴったりの肌着を探し出せずイライラすることが多くて思いついた。
『クロワッサン』1075号より