「海やお寺で心のリリース」、鎌倉で暮らす作家・甘糟りり子さんの運気の整え方。
撮影・枦木 功(nomadica) 文・鈴木奈代
大切なのは小さな切り替え。海やお寺で心のリリースを。
鎌倉・稲村ヶ崎の風情ある日本家屋で、母と2人で暮らす甘糟りり子さん。毎朝、起きるとまずは日本茶を淹れる。母のため、そして亡き父の位牌にお供えするためだ。朝食は和食中心、朝晩かき回す自家製の糠漬けも欠かさない。
「ひととおりの家事を終えたら、自分のためにコーヒーを淹れます。お気に入りの豆を挽き、ハンドドリップで丁寧に。『さぁ仕事を始めるぞ』とリズムをつける感じでしょうか」
仕事が煮詰まったら香りで気分転換を。手軽な紙香から香炉で聞くお香まで、気分によって楽しんでいる。
「我が家は古い日本家屋。オーソドックスな和っぽい香りだとやり過ぎになりやすいので、華やかな香りのお香を選ぶことが多いんです」
数年前には聞香を体験。とても楽しかったという。その後、友人からお香箱を頂き、心を落ち着かせたい時などに、自宅でも挑戦してみるようになった。
「お客様が来た時に楽しもうと思ったら、友人に『お香は自分のためにたてて』と言われたんです。灰押(はいおさえ)で灰を整える作業が好き。手を動かしていると自然とリラックスできます」
日暮れが近づくと稲村ヶ崎の海へ。
「海岸線を歩いたり走ったり。最後は稲村ヶ崎公園で、沈む夕陽を眺めるのがいつものコース。晴れれば江の島の横に富士山も見えるんですよ。最近、子どもの頃から親しんだこの景色がしみじみいいなと思うようになりました」
コーヒーもお香も海で夕陽を眺めることも、大切な暮らしのルーティンだ。
折にふれ、訪れるのは円覚寺。父の命日と誕生日には墓前に。
「円覚寺にはたくさん建物があるのですが、父が眠る墓地は高台にあって見晴らしがよく、清々しい。訪れるたびに気のいい場所だなと感じます。早朝の坐禅もおすすめです」
そもそも甘糟さん自身は、それほど「運気」を気にしない。落ち込むことがあったら、ジョギングをしたり海で遊んだり。好きな小説を読み、映画を観て別世界へと思いを馳せ、サッと気持ちを切り替えてしまう。
「すべてのことは受け止め方次第、と。悲しいことや嫌なことも経験のひとつ。そこから得ることもある。物書きですから。『いろいろな感情を知るチャンス』と思います」
時には坐禅を。静かに内観し心を調える。
臨済宗円覚寺派の大本山、円覚寺の御本尊が祀られている仏殿では朝6時から暁天坐禅会を開催。「薄目で坐禅を組むと静かに自分と向き合えて、『大丈夫だ』と思える気がします」
円覚寺
神奈川県鎌倉市山ノ内409
https://www.engakuji.or.jp
『クロワッサン』1074号より