岸さんが会場に姿を現した瞬間、たちまち場が華やぐ。凛としてハイヒールを履きこなす立ち姿の美しさは一輪の薔薇のよう。艶然とした笑みを湛えて「この取材会は久しぶりの外出なのよ」と語り始めた。
24歳で渡仏。長い外国生活を経験、ジャーナリストとしての著作もある岸さんの視点は、その人生同様にオリジナルなものだ。
トークショーでテーマにしたいことを聞かれ、
「時代がガラリと変わってしまいました。コロナウイルスという疫病と、プーチンさんの夢なのかしらね、ロシア帝国を再び取り戻そうという無謀な戦い。私たちの日本は特殊な国で、海に囲まれた安全地帯。もっと外を見ないと、行動をおこさないと、って思います。
私はウクライナの人をよく知っています。とても強い人たち。国に対する愛と信仰で、ここまで戦えるのは本当にすごいこと。でも、私はロシア人のいいところもよく知っているの。昔、その時の書記長だったフルチショフさんに招かれて、夫とともに彼の専用機で旧ソビエトの各地を回りました。そのときに触れたスラブ民族の優しさと明るさ、ユーモア、素朴な人の良さ。なのに今、彼らがよくわからない戦いに駆り出されて死んでいくのは、虚しいこと。ウクライナやベラルーシ、バルト三国を訪れたときに見た大平原の穀倉地帯、豊かに実った麦畑やひまわりの美しさが忘れられません。
今回はそんなことなどをお話できたらと思っています。」
トークショーのタイトルは「今を生きる」。「昨日があるから今があって、明日があるから今を一生懸命生きるんです」。
公演のある8月には90歳になる。「健康法? 何もしていないけれど、寝たいときに寝たいだけ寝ることよ(笑)」。
そんな岸さんが示してくれる、今の時代を生きるエッセンスを、ぜひ聴きに行きたい。