くらし

神宮前QUICOオーナー・山本弘美さんが選ぶニッポンの手仕事。

そこにあるだけで暮らしにリズムが生まれる。あるいは作り手の情熱と静謐さに感服する。目利きが選ぶニッポンの手仕事をご覧あれ。
  • 撮影・三東サイ 文・田村幸子

手仕事の持つエネルギーに癒やされます。

ベトナムの手仕事によるオリジナルデザインの服で、一世を風靡した「COCUE(コキュ)」。そこを経て、セレクトショップ『QUICO(キコ)』をオープンし、16年。

「服だけでなく、暮らしを豊かにする道具たちを紹介したいと思って始めました。作り手の顔が見える、手仕事の温もりを感じるものを、時間をかけて探しています」(山本弘美さん)

最初は、世界各国のハンドクラフトを買いつけていたが、2年後には日本の手仕事に注目するように。東北や九州各地の職人を訪ね歩いた。そこで巡り合ったのが、会津の山ぶどうの手さげかごや、大分の竹かごなど。見た目が美しく、使い勝手もいい、量産ができないものばかりなので、自身の店で扱うまでは時間がかかったという。

「陶芸家の小川甚八さんの急須は、姿かたちも美しく、注ぎ終わったときにしずくが一滴も垂れない。味も違うんです」

家で過ごす時間が増えたからこそ、茶道具はいいものを選んで使いたい。名工の技が光る茶筒、贅沢な銅の茶こしなど、山本さんセレクトの茶道具は「用の美」のお手本のようだ。

山本さんの自宅のような雰囲気のサロン。インターホンを押すとドアを開けてもらえる。予約不要。

<Salon QUICO>
東京都渋谷区神宮前5・16・15 QUICOビル3F
TEL.03・5464・0912
営業時間:12時〜16時30分 月・火・水曜休(※営業日と時間は事前に確認を)
オンラインショップ http://quico.jp

茶の品質をしっかり保ってくれる、 斉藤久山さんの茶筒と薄盆。

古くから魔除けになり、幸運をもたらす木として知られる槐(えんじゅ)の茶筒は、山形県の木工作家、故・斉藤久山さん作。「蓋が気持ちよくピタッと閉まる。密閉度が高いので、茶葉の品質が長持ちします」と山本さん。欅(けやき)の薄盆も、使うほどに味わいが出てきた。

本物だから育てる楽しみがある。山ぶどうとあけびの手さげかご。

手で編まれた手さげかごは、3代で使えるほど丈夫。「13年目ですが、だんだんなめした革みたいに艶が出てきました。若いころはハイブランドのバッグに憧れましたが、いまは流行、年齢に関係なくシーズンレスで持てて着物にもデニムにも似合うかごが一番」。山ぶどう(手前)は会津の故・長郷千代喜さん作、あけび(奥)は和島常男さん作。

蓋の開け閉めが快適で手放せない。 京都・開化堂のブリキの珈琲缶。

新品なのにどこかレトロな鈍色のブリキ缶は、京都の老舗のロングセラー。二重蓋仕様になっていて湿気をよせつけない。それでいて蓋の開け閉めがスムーズ。スプーンもついて使い勝手もいい。「小麦粉やナッツ、グラノーラなどをしまっておくのにも使っています。キッチンにいくつか並べておくのも、かわいいんですよ」(山本さん)

最後の一滴までしずくが垂れない。 陶芸家・小川甚八さんの急須。

世界中の美食家が集うデンマークのレストラン『NOMA』でも使われている小川甚八さんの急須は、姿も美しければ、お茶を淹れると驚くほど湯切れがいい。「お茶を美味しく淹れることに、徹底的にこだわって作られています。青磁の小さい急須は少人数で淹れるときに。焼き締めのひと回り大きい急須は中国茶をたっぷり淹れるのに使います」

湯をなめらかに してくれる、 京都「金網つじ」の 銅茶こし。

京都の老舗、金物道具を扱う『金網つじ』の銅茶こしは、茶葉をきちんと開かせ、湯をなめらかにしてくれる。「普通の茶こしは味気ないけれど、これは網目や形の美しさにほれぼれします。ときにはティーポットや急須でなく、茶こしを使ってお茶を淹れるのも楽しいもの。網が切れても、きちんと修理してくれるので、長く使えます」

酒肴をのせても、 トレー代わりにしても。会津、黒拭漆(くろふきうるし)の 栓のノミ目皿。

彫刻刀で手彫りしたノミ目が味わい深い。黒漆をかけてあるが、使い込むほどに色艶が出て美しさが増す。「アクセサリーを飾ってもいいし、ちょっとした酒肴やお菓子をのせても映えます。拭漆は、古くからある手仕事ですが、大胆な手彫りのノミ目をつけることで、どこかモダンで新しい印象になります」

キッチンで使ってもしっくり くる、岩手の竹製文庫。

「竹製文庫は本来、便箋や封筒、筆記具などをしまうものですが、キッチンで普段使うグラスやカップを目隠しできるものを探していて、ひらめきました。サイズもちょうどよくてしっくりきます」。モダンな住空間にもシンプルな竹細工が映える。温かみと、使い手の見立てにつきあう余白があるのも、手仕事ならでは。

生活感が出ないところがお気に入り。 大分の竹製水切りかご。

竹の水切りかごはキッチンに出しっぱなしでも、生活感が出ない。「洗ったカップや茶碗などを伏せておきますが、クラフトとしても美しいから気に入っています。お手入れは、カビや汚れがつきやすいので洗ってよく乾かしたり、ときには漂白剤で汚れを落とします」。窓辺にあるだけで食器洗いもはかどりそう。

かご好きには見逃せない企画展

『ちいさな私×ちいさな籠 my first basket』

幼い子どものために、小さな良質のかごを。インテリアスタイリスト・津田晴美さんの発案による企画展。日本のあけび、竹、海外の籐、柳、松など様々な素材のかごを一堂に展示します。おんぶもっこ、産着も。

〈熊本展〉11月5日(金)〜22日(月)OPEN 金・土・日曜 D-ware house●熊本市東区長嶺南2・5・56 TEL.0962・132・121 Email:info@granmocco.jp https://granmocco.jp

山本弘美

山本弘美 さん (やまもと・ひろみ)

「salonQUICO」オーナー

「コムデギャルソン」でプレスを担当後、「COCUE」に参加。2005年、東京・神宮前に北欧家具と各国のハンドクラフトを扱う『QUICO』をオープン。

『クロワッサン』1054号より

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※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

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