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【歌人・木下龍也の短歌組手】人生はいま工事中。

第41回全国短歌大会大会賞を受賞して以降、精力的に活動を続ける歌人・木下龍也さんが読者の短歌にコメントをする連載『短歌組手』。今回で最終回です。

〈読者の短歌〉
このラベルはきれいにはがせますというラベルがきれいにはがせてこわい

(春野さき子/女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
言葉の魔力のようなもの感じますよね。実際は圧倒的科学力によるものなのでしょうけど。

〈読者の短歌〉
この道は誕生日まで工事中  じゃあね19歳の私
「11月に20歳になります。私が20歳をやれるかとても不安です。」
(樵田りこ/女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
お誕生日おめでとうございます。何ができるのかわからないという不安を「この道は誕生日まで工事中」という言葉でうまく表現できていると思います。僕も誕生日を迎えるたびに不安です。死ぬまで終わらないのかもしれませんね、人生という道の工事は。

〈読者の短歌〉
目の中のにおいの指を隠すためグーで殴ってほんとにごめん

(森本りん/女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
車を盗むとき配線に配線をふれさせて火花を散らすシーンがあるじゃないですか。映画で。バチって。「目の中のにおい」という文字列を読んだとき、同じような火花が散りました。僕の脳内で。「目の中のにおい」なんて考えたこともなかったですから。でもこうやって当然のように置かれると、なんかエンジンがかかりそうで震えてしまいます。この短歌、ひとりで完結している可能性もありますが、自然に読めば登場人物は殴る側(「指」の持ち主であやまっている側)と殴られる側のふたりです。ロマンチックに読めば「目の中のにおい」というのは涙のことでしょうか。平手打ちでもよかったけれど泣いていることを察知されたくなかったので涙に濡れた指を隠すため拳で殴ってしまった的な意味の短歌なのかもしれません。あるいは、あなた(殴られる側)が見ているあなたの(何かのにおいのついた)指をあなたの視界から消すために(わたしが)殴った、とも読めます。どうなんでしょう。わからなくて面白い一首でした。

『歌人・木下龍也の短歌組手』はこれにておしまいです。たくさんの短歌を読みながら、僕自身たくさん学ばせていただきました。短歌をご投稿してくださったみなさま、お読みくださったみなさま、そしてクロワッサン編集部の山口さん、大変お世話になりました。ありがとうございました。

(撮影:木下さん)
(撮影:木下さん)
  • 木下龍也

    木下龍也 (きのしたたつや)

    歌人

    1988年、山口県生まれ。2011年から短歌をつくり始め、様々な場所で発表をする。著書に『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』がある。

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