【歌人・木下龍也の短歌組手】夫婦の愛が可能にすること。
〈読者の短歌〉
母の書く文字はだいたい読めなくて父は読めてて愛なのだった
(半島/女性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
ふたりだけでは気づけないほど生活に染み込んだ愛を、ふたりの愛から生まれたあなたが見つけてみせた。
〈読者の短歌〉
ただ寝るじゃなくて あなたの隣ならわたしはねむる むは温かい
(ななぽっぷ/女性/テーマ「恋人」)
〈木下さんのコメント〉
「ねる」と「ねむる」。たしかに温度差のある言葉だ。「ねる」が連れてくることのできない「永遠に」を「ねむる」は連れてくることができる。「永遠にねむる」は死を意味する。死は体温を奪うもので、奪える体温のあるところにしかやってこない。つまり「ねむる」には「ねる」にはない温かさがあり、その差は「む」だけだから「むは温かい」という結論に至るのではないだろうか。何を言っているのか自分でもわからなくなってきたな。
〈読者の短歌〉
いっぱいのいとぱの隙に促音を連ねて君が広げる両手
(平井まどか/女性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
会社で売上目標とかをこのように表現すれば一目置かれる存在になれるでしょうね。
〈読者の短歌〉
ワンと鳴くから犬ですよウチの子は目が6個でも口が無くても
(庄野 酢飯/男性/テーマ「犬」)
〈木下さんのコメント〉
どこから「ワン」が出とるんよ。
〈読者の短歌〉
コンビニで金髪ピアスの青年が香典袋を買う雨の夜
(corazoncito/女性/テーマ「コンビニ」)
〈木下さんのコメント〉
一般的には結びつきの薄いもの同士が1首のなかでぶつかったときの衝撃。その余波は読者の頭のなかに様々な物語を想起させる。この歌の場合「金髪ピアスの青年」と「香典袋」の取り合わせが巧いですね。「金髪ピアスの青年」が「白髪に杖の老人」だったらこんな衝撃は生まれない。
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