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寄席の『新しい日常』を少しだけご紹介。│柳家三三「きょうも落語日和」

イラストレーション・勝田 文

寄席の『新しい日常』を少しだけご紹介。│柳家三三「きょうも落語日和」

「経済をまわさないと世の中がもたないよね」という声の中で、なんとか以前に近い活動に戻りたい気持ちと、「人が動けば感染は拡大するよね」という気持ち。相半ばしながら日々が過ぎていきます。

東京の落語界も六月に定席の一部が興行を再開したのを皮切りに、少しずつ少しずつ、催しは増えてきましたが、客席数の半分までしかお客さまにお入りいただけないだけでなく、会場に足を運ぶことをためらうかたがまだ多いのも実情のようです。

そんな再開した寄席の「新しい日常」をちょっとご紹介しましょう。まず楽屋入りの時間、通常自分の出番の30分前までには入るのが暗黙のルールで、これに変わりはないものの、早めに入って仲間との楽屋話を楽しみたい師匠には「早過ぎるのはご法度」とのお達しがあったようです。

さて楽屋入口のドアを開けると着物姿でマスクをつけた前座さんが小さめの声で「ご苦労さまです(目上にご苦労さまは本来妙なものですが、寄席は昔からこの挨拶なんです)」と近づいて来るなり、こめかみに銃口を向けて……と思ったら検温です。そして脱いだ靴を前座が、ではなく「自分でしまって」という貼り紙に従います。出されるお茶は味気なく紙コップ、楽屋内は禁煙となり、出番直前までマスクをしたまま会話はなるべく控えめに。出番を終えたらトリの師匠に挨拶するために残るなどせず、早めに帰るようにとのこと。もちろん当面は打上げ、お客さまとの会食もストップがかかっています。

安全な興行のためとはいえ、息のつまる新しい日常。早く元の呑気な落語日和をとり戻したいですね。

柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は公式サイトにて。
http://www.yanagiya-sanza.com

『クロワッサン』1030号より

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